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「で、どうすんの?」
「なにが」
「だから、その女のことだよ。まさかこのままなにもしないつもり?」
「って言っても、名前もなにも知らないしなんもできねえし」
「それはそうだけどさ、遊んでばかりいた瑞希がせっかく惚れた女なのに」
確かに気になる存在ではあるけど、これが恋かと言われたらわからない。
そんなものはとっくの昔に置いてきたから、それがどんなものだったのかさえもう覚えていない。
いや、そもそも本気で誰かを好きになったことなんてあっただろうか。
『好き』と言われたから付き合って、好きだと思い込んでいただけだった気がする。
そこに恋とか愛とか、そういうものはなかった。
多少の気持ちはあったかもしれないけど、会いたいと思うような女はいなかった。
それでも一緒にいる時間はそれなりに楽しかったはずで、どこにでもいるような恋人としての付き合いをしていた。
「だから、そんなんじゃないって」
そう言いながらも、頭の中はいまだに彼女のことでいっぱいだった。
あの笑顔が自分に、自分だけに向けられたらいいのに、とそう思う。
そしたらその笑顔が消えないようにすべてを懸けて全力で守るのに、って。
あの笑顔のためならきっとなんだってできる、そんな気さえするのに。
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