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「楽しそうね。なんの話してるの?」
その時、テーブルに詩織がやってきて、ごく自然に瑞希の隣にそっと腰掛けた。
鼻先をかすめる甘い匂いは当然ながらあの彼女とは違って、これじゃない、と思う自分がいた。
この匂いじゃなくて、彼女のはもっと甘くて、香水とは違う優しさを感じるようなもの。
こんなにも求めている自分に気付いて混乱し、戸惑いを隠せなかった。
「あぁ、瑞希が惚れた女の話」
詩織に聞かれて、楓はそう言った。
この気持ちが恋かどうかも、自分でもまだよくわかってないというのに。
他の女とは違う、ただどうしようもなく気になるというだけなのに。
「ちょっ、勝手なこと言うなって!」
慌てたように咎めて見せても、本当のことだろ、と言いたげに楓は微笑むだけ。
「え? ……瑞希、好きな人いるの?」
楓の言葉を聞くと、詩織は眉を微かに寄せ、その顔から一瞬で笑みを消した。
「あ、いや、好きってわけじゃ、」
「でも、気になってる人?」
「……まあ」
「ふうん。初めて聞いた、そんな話」
詩織はどこかつまらなさそうに言って、サラダのトマトを口に放り込んだ。
いつもの彼女ならもっと興味津々の様子で身を乗り出してきそうなのに、今日は違っていた。
そのことに違和感のようなものを覚えて、瑞希は不思議そうに首を傾げた。
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