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「で、それって誰なの?」
そう聞かれても、あの彼女のことをなにも知らない自分には答えられない。
知りたいと思うのに、知る術をなにも持たない自分がとにかく悔しかった。
こんなにも心を引っ張られているのに、彼女がそれを知らないことも。
なにも言えずに黙り込んでいると、詩織は不機嫌そうに眉をしかめた。
「私には教えられないって言うの?」
「……いや、そうじゃなくて」
「じゃあなに?」
瑞希が今まで不特定多数の女と関係を持ってきたこともそれでトラブルが多いことも、決して女に本気にならないことも、詩織は知っている。
あの彼女とはそういう関係どころか知り合いにすらなっていなくて今までとは違うけど、でも言えない事実が自分を責め立てた。
「くく、それが笑えるんだけど」
楓は抑えきれない笑みを浮かべる。
止めようと思うけど、頭の中があの彼女で支配されていて言葉が出てこない。
あの日から意味もなく飽きるほどに何度も何度も、彼女を見たあの公園へと行っている。
そんなことをしても会える保証なんてまったくないのに、もしかしたら、と期待して。
会えないことに落ち込んで、諦めればいいのにそれができない。
たったの1%でも会える可能性があるなら、それに縋りついていたいなんて。
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