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なにも考えたくなかった。
そんな余裕もないほどに、違うことで自分の中を埋めつくしてしまいたかった。
セックスしている時だけは、快楽に支配されている時だけは嫌なことは忘れられた。
だから、詩織を利用して、今さらどうしようもない過去と向き合わずに逃げようとした。
それ以外の方法なんてわからず、他にどうすればいいのかわからなかった。
――俺は、弱いから……。
***
「……雨」
行為を終えると、詩織は小動物のように体を丸めながらボソッと呟いた。
「瑞希が突然来るのは、いつも決まって雨の日だなって思って」
「……そうだっけ?」
「うん、そういう時はまるでなにかをぶつけるような激しい抱き方だしね」
「………」
「それ以外の時はもっと優しい。ま、どっちも瑞希も好きだけどね」
妖艶に笑う詩織からわざとらしく目を逸らして、「たまたまだろ」と言う。
そう言えば詩織は特に追究したりせず、ただ一言、「そうね」と言うだけ。
こういうあっさりとしたところが楽だ。
もしこれが他の女だったら、そんなことない、と反論されて面倒だと思うはずだ。
その点、詩織は一切そういうことがなく、踏み込んでほしくないことには触れない。
だから、他の女とは違って詩織とは長く続いてるんだ、――セフレとして。
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