遠き日の団子石

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遠き日の団子石

 青森の片田舎。山を遊び場に二人の子供は石を拾う。 「ほら。これが団子石」 「知ってるよ。溶岩がゆっくり冷えて中身が長い間熱かったから中が黒い石でしょ?」 「小学校で習ったまんまじゃんな。この辺でしか取れないんだからもっと夢のある話しようぜ」 「例えば?」 「団子石の伝承習ったじゃん? それで妄想するんだよ」 「えっと。毒を混ぜたお団子だっけ?」 「そうそう例えば……」  女の子を前に男の子が妄想を話し出す。 「戦国の時代」  女の子はその場に座って耳を澄ます。男の子の話をじっくり聞くために。 「今度こそ終わりかも知れない……」  この山が領地の境目であるために一組の男女はここを逢瀬の場所としている。旅人にとっては難所の山も二人にとっては庭のようなもの。ただ、この境目だけでしか二人は会えぬ理由があった。 「父上はまた、そちらを攻める提案を主君にした。懲りずに何度も何度も」  この峠には一軒の宿場がある。大きなものではないが、峠を越える人たちは必ずここに立ち止まる。休憩がてら茶をいただいたり、泊まって夜を明かす者もいる。宿として機能しているからこそ二人は度々ここで夜を明かす。 「こちら側も不穏です。先手を打つべきだと父上は常々言ってます……」  お互いに敵領地の重臣の息子に娘。許されぬと知りながら、二人ははじめて出会ったこの山で何度も会っている。 「俺らが会うのをやめればいいのだろうか?」 「違います。争うほうが悪いのです。それに……やめると言ったとしてもあと一回もう一回と私たちは何度も会ってしまいます。あなたもお分かりでしょう?」  お互いにこの出会いは運命だと思っている。立場が違えば晴れて夫婦になれただろうが、現状はそれを許さない。お互いにそれもよく分かっている。  「分かっている……。せつに会えなくなるくらいなら俺は腹を切る。そのくらいの覚悟はある」 「私も弥二郎さんに会えなくなるならば身投げします。その覚悟はあります」  とは言ってもお互いに敵同士。夫婦になることなど一生叶わない。それもまた二人にとっては事実。 「せめて次の戦いを避けられればいいが」  弥二郎は深いため息を吐く。  宿から見える月を見上げるせつはあっと声を出した。 「次の戦いは私がなんとかしてみせます。弥二郎さんはそちらの兵たちがこの宿で休みをとるように計らってください」 「何か策があるのか?」 「はい。上手くいくかどうかは分かりませんが、上手くいかなかったらお互いにあの世にいきましょう。よろしいでしょうか?」 「ああ。構わない。俺らがこうやって会っているだけで奇跡なのだ。今更だ」 「良かった……。次の戦を乗り越えられたならまた会いましょう」  夜は更けていく。せつがどのような策を思い付いたか弥二郎は知らぬままに。
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