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渡良瀬取締役からの誘い
今日、明日香は廊下で、渡良瀬取締役に声をかけられた。「内藤さん、今度、仕事終わりに食事でもどう?」と。
渡良瀬取締役には、妻も子供も孫までいる。感じのいいおじいちゃん。そう思っていた。
はるか年上のひとに好かれるのは、悪いことばっかりじゃない。
彼らは豊富な知識や経験と、たくさんのお金をもっている、はず。
話は面白いし、余裕があるし、若い娘には優しいし、食事に行くぐらい、なんの抵抗もなかった。
渡良瀬取締役は明日香のすぐ隣のブロックに席がある。
毎日、お茶をすすりながら、新聞読みながら、隣の石井部長と哲学めいた論議をずっと交わしている。暇なのだ。
それでも二千人いる企業のなかで、たった十数人しかいない取締役まで昇りつめるのは、簡単なことではないだろう。
要するに、たぬきなのだ。明日香は甘っちょろいから、そこのところに気が付かなかった。
約束した夜、明日香は楓の街路樹の下で、渡良瀬取締役の車を待った。
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