フカヒレのスープの値段

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フカヒレのスープの値段

 連れて行かれたのは、街で一番高いビル。夜景の見える最上階の、眺望レストランだった。  エレベーターを降りると、白い布を掛けた左手を、直角に曲げたウエイターが待っていた。明らかにこれは高い店だ。  お金持ちだね。偉いひとだもんね。  ウエイターに椅子を引いてもらって席につく。真っ白な内装、白い布を掛けた広めのテーブル。中華の店のようだ、となんとなく感じた。 「適当に頼んでいいかな。」  取締役の質問に、はい、と答える。彼はウエイターに、次々料理を注文していった。 「お酒は? グラスのシャンパンでももらう?」  明日香は、 「お酒はあまり得意でないので、結構です。」  と答えた。車で帰る取締役は、どうせお酒を呑めないのだ。シャンパンを呑んだことがないからちょっと気にはなったけど、お酒が苦手なのは本当だ。 「じゃあ、フカヒレのスープでも頼もうか。」  明日香はそのとき、取締役の手にしていたメニューの値段を見てしまった。フカヒレのスープ、一杯三千七百円。  思っていたより、はるかにとんでもないところに来てしまったようだ。  でもなぜか、明日香の胸は全然高鳴らないのだ。  お金は大事だと思っているし、お金のことで苦労するのは嫌だけど、身の丈に合わない贅沢にそんなに価値があるとも思えない。大切なものは、きっとお金を積んでも手に入らない。  豪快に使うお金も、清貧な暮らしをしてこつこつ貯めこんだ挙句、一生使うことなく遺産として相続される莫大なお金も、どちらにしても、明日香には「違う」のだった。  やってきたフカヒレのスープは、小さいカップにほんとに一杯で、美味しかったけど、その美味しさと値段とが釣り合っているとは思えなかった。  食べきれないほどたくさんの大皿料理がやってきて、どれもこれも美味しかったけど、自分のお金を出してまで食べたいと思わない。だってきっと、すごく高いに違いないから。
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