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ニ.
「なんだ?ここ」
「こんな山、あったっけ?
っていうか……この山以外、周りに何もないんだけど……」
男が辿り着いた先では、粗末なボロ布のような衣服をまとった十代ぐらいの男女が、不思議そうに辺りを見回していた。
山は麓の先で空間が途切れ、その向こうは真っ白な濃霧のようになっていた。
「えぇー……嘘だろ、人間……。
この山に人間なんか創る気なかったのに……」
駆け下りてきた男が眉間にしわを寄せていると、
「あ!
良かった、人がいた!」
「ほんとだ!
あの、ここ、どこですか?
あたしたち、簾掛村から逃げてきて、大鵺山に入ったはずなんですけど……」
男女が人を見つけた安堵の表情で近づいてくる。
「……」
どう答えたものか、一瞬の間。
が、男は大きなため息をついた後、
「私はこの山の創生を任されている山神のジン。
本来の時間軸では、とうの昔に人間はお前たちの星ごと絶滅している。
私の気の緩みで結界に穴が空き時空がねじれて繋がり、お前たちはそこからこの山に入り込んでしまったのだ。
しかし残念だが私は時空を司る神ではないから、お前たちを元の世界に帰すすべはない。
となればお前たちはここでものすごーくヒマになるから、私の仕事を手伝え」
二人に向かってビシッっと指を向けた。
あっけに取られて言葉を失っている二人だったが、やがて男の方が、
「全く全然イミフだけど……もしかして戦とか飢饉とかない、まともな暮らしができるってことか……?」
と希望の色を見せ、
「かっこいい……」
山神・ジンの容姿に見とれながら、女がつぶやいた。
「おい、メノ!」
その脇を、男が肘で小突いた。
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