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六.
一人残ったヤエキは、
「やっぱでかいもんが空とか飛んでるのはチョスい(超スゴい)よな。
翼もないのに飛んでるのとか、できんのかな。
まぁ霧から生まれるヘビとか創れたんだし、何でもアリだよな、きっと」
独り言をつぶやきながら、描いてはページをめくり描いてはページをめくり、夢中で新しい要素を考えた。
と、その時。
バァーンッ!!と、背後の空中から轟音が響いた。
飛び上がるほど驚いて思わずスケッチブックを取り落としたヤエキが振り返ると、空中に無数に置かれ微動だにしないあまたの要素の向こうで、何かがうごめいている。
「なんだ……あれ……あんなの創ったか?
俺の案には無い……ジンがいつの間にか……?」
「違う!
結界がまた破れたんだ!」
一瞬にしてヤエキの隣へと駆け上ってきたジンが、その何かを睨む。
「ゲールビルだ……!
最悪だな……あれ創ったやつ、ほんと最悪……!」
「なんだって?」
ヤエキがそのゲールビルとジンに交互に顔を向ける。
「あれは、お前たちの星とは別の遥か遠い星の、凶悪な肉食獣だ……!
寿命で死んだ時に一匹だけ子を残す、という最弱の繁殖力の代わりに、千度近い温度変化にも、ギガパスカルの圧力にも耐え、真空中でも行動可能、多少の放射線なんか浴びても逆に元気になる、食えないものなど何も無いっていう、『星殺し』さ」
「何言ってんのかさっぱりなんだけど……って……落ちてきてんぞ!
気持ち悪!」
空中の要素たちをけちらすようにして山へと落下してきたゲールビルなる生物的な何かは、巨大な芋虫に巨大な目が四つ、そして無数のハンマーのような腕が背中から伸びていた。
ゲールビルは辺りをうかがうように鎌首をもたげた後、ふいに伸び上がり大きな口を開くと、山へと噛みついた。
轟音とともに山が削り取られ、ゲールビルの咀嚼音が響く。
「おい、なんかヤバくね?
どうにかしろよ!」
ヤエキがジンの胸ぐらをつかむ。
「そうだな。
だがこの山にある要素であれを倒すのとかは不可能だ。
一瞬だけ結界を開くから、そこから外へ帰って頂こうか」
「んなことできんのか!?
だったら早くしろよ!」
「いや、だから、私は色々あんまり上手くないから……開いてる時間が長いと別のがまた入ってくるかもしれないし、ほんとに一瞬だけあれの真横で開かなきゃいけなくて、ちょっと精神統一が……」
「きゃあぁあぁーっ!!」
遠くからメノの叫び声が届いた。
運が悪い、ゲールビルの落ちた近くだ。
「くそ!!
よくわかんねぇがさっさとしろよな!!」
ヤエキが叫び声の方、同時にゲールビルの方でもあるが、そちらへ向かって猛然と山を駆け下りて行った。
「なんとか……間に合わせる……!」
ジンが胸の前で拳を握り合わせた。
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