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七.
「何よこれ気持ち悪い!!
いやあぁあ!?
こっち見んな!!
怖い怖い怖い怖い!!
ジン様助けて!!」
百メートル以上は離れているのだが、それはあまりにも巨大で、ひとっ飛びでメノの元へと辿り着けそうな圧迫感があった。
メノはそれに背を向け、何度も振り返りながら全力で駆け抜ける。
「ジン様じゃなくて悪かったな!!」
「ヤエキ!!」
追いついたヤエキがメノを抱えて大きく跳躍する。
「『重力』ってのを変えられる石が色んなとこに置いてあんだよ。
それを踏むと……!」
着地したヤエキの足の下には、黒く平らな丸い石があった。
力強く踏み込むと、ヤエキは再び高く遠くへと飛び上がる。
「面白ぇだろ?
俺が考えたんだぜ」
「そんなことよりもあれ!!
あれ何よ、どうすんのよ、超キモ怖いんだけど!!」
ヤエキの腕の中でメノが半狂乱の声を上げる。
「ジンがなんとかするっつってたから、とにかく巻き添え食わねぇように離れるんだよ」
「あんなのなんとかするって、何をどうやって!?」
「だから、なんかよくわかんねぇけど結界を開いて放り込……ぁぐあっ!!」
「!?
ヤエキ!?」
突然苦悶の声を上げたヤエキに、メノが呼びかけるが反応が無い。
二人はそのまま地面へと落下して転がった。
「ヤエキ!!」
ヤエキの腕の中から這い出したメノが目にしたものは、ヤエキの背中に突き刺さっている、ハンマーのようなぬめぬめとした塊であった。
塊からは細長い紐のようなものが生え、遥かどこかへと伸びて、時折脈打っている。
「う……メノ……生きてるな……なら……いい……」
「ヤエキ!!」
かろうじて意識を取り戻したヤエキに、メノがしがみついた。
と、激しく地面が揺れ、ふいに巨大な目が一つ、頭上に現れる。
「い……いや……!!」
何度かまばたきをした目は、興味深げに二人を見つめ、そして再び地面が大きく揺れると、その目から伸びた紐のようなものに引き寄せられたかのように、巨大な影が現れて辺りを覆った。
「お……まえ……一人で……逃げろ……早く……ぐぁっ!!」
ヤエキの背からハンマーが引き抜かれ、その影、ゲールビルの背へと戻る。
鮮血がメノの頬にも降り掛かった。
「い、いや……そんな……できない……怖くて……足が動かない……」
激しく震えながら、メノが必死に言葉を絞り出す。
「行ける……できる……お前なら……俺が……俺が惚れた女は……絶対……できる……」
「ヤエキ……!」
だが、その二人の頭上で、ゲールビルが大きく禍々しい口を開き、辺り一帯ごと二人を飲み込まんと、一気に頭を振り下ろした。
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