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(光)
お隣の紗矢ちゃんのお誕生会に呼ばれた。僕や近所の子供たちが数人集まって「ハッピーバースデー」を歌った後。切り分けられたショートケーキが配られるや否や、紗矢ちゃんはてっぺんのイチゴを口に放り込んだ。
あ、いやな予感。
でもいくら紗矢ちゃんが主役だからって、僕は引かないからな。つまり、僕の分は絶対あげないからな。
僕は自分の皿を引き寄せて腕でがっちりガード、スポンジやクリームをちびちび口に運ぶ。イチゴはスポンジにもスライスで挟まっているので、酸っぱさと甘さのコンビは味わえる。そしてトップスの丸ごとイチゴは最後だ。
けどその間ずっと、紗矢ちゃんの視線が僕の腕ガードを通り抜け、てっぺんのイチゴに集中しているのがわかる。他の子もみな食べちゃったので、僕のを狙ってるのだ。
絶対あげない。先に食べちゃった紗矢ちゃんが悪い。
「イチゴ、食べたい! イチゴ!」
騒ぐ紗矢ちゃんを、周りの大人は困って僕を見つめるんだけど……大人のこの対応、絶対おかしいよな。
「ねえ光くん、どうかしら、、、」
イヤだ。絶対にイヤだ。僕だってイチゴ大好きだから、だから最後に楽しみを取っておいてるんだから。
紗矢ちゃんは、ザッと立ち上がり、そして愛用ポシェットをつかんだ。
「あたしの分のイチゴが足りません。誕生日なのにおかしいんじゃないでしょうか。リプレイ検証を……」
……わざとらしいそのつぶやき。こないだ道徳の時間に聞いたばかりの、杏牌屋神社へ行くつもりだな。僕は白けて言った。
「イチゴなんて買えば間に合うじゃん。そんなつまらないことでチャレンジしても残りを減らしていくだけだよ」
そう。チャレンジ制度とは、こちらの要望通りくつがえればいいけど、最初の判定が正しいと判断されたら申請できる権利は三回からどんどん減っていくのだ。
紗矢ちゃんはキュッと目を細め、僕をにらんだ。次の瞬間、目にも留まらぬ速さで僕のイチゴが消えた。
「ホントだね。チャレンジの必要なかった」
取り返すべくその腕をつかもうとしたら頭突きでこっちが飛ばされた。悔しいが、紗矢ちゃんの方が僕より数倍力持ちなのだ。
……よし。僕は『紗矢ちゃんと幼なじみに生まれたことに異議を申し立てます』と申請してやる。そう決意を固めた。
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