(光)

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(光)

 紗矢の奴、何でも、男に振られたことを取り消せないかとチャレンジ制度を使ったらしく。もちろん失敗したらしく。つまり残りあと一回。  今じゃ男ったらしだって近所で評判になっている。まあ次から次へと付き合っては捨てて。  ホント、近寄りたくねーわ。けど家が隣だから、バッタリ会ってしまうこともあって。まあこちらも女連れで、でも俺は一途で誠実だし。 「何よ。こっちから告ったら負けじゃん? で、フッた方が勝ちでしょ」  紗矢の理屈はそんな風にねじ曲がっていた。恋愛に勝ち負けって何だよ。俺にはわからんわ。けど、男から告白させるように仕向け、イヤになると「あんたとは終わります、以上」なんて別れ方。そりゃあ恨みなり歪みなりストーカーなりを呼ぶだろが。  それで一回、ホームで突き落とされかけた。 「いやあ、あんな男に引っかかった自分が悔しい。え? 手立てがあるなら使わなきゃ」 「お、おい……」 「大銀杏さま。あんな奴と出会ったことは間違いだった。あれとは道端ですれ違うだけで終わっていたはず、との検証お願いします」  違うだろ。出会ったことじゃなく、お前の態度が間違ってんだろ、気づけよ。  ――大銀杏さまは、やはり俺と同感で、紗矢のリプレイ権利は0になった。  ったく、前回とほぼ同じ状況のダメに決まってるチャレンジ。たった三回の大事な権利を人生の前半未満で使い切るなんて、どうかしている。  まあ俺には関係ない。  仕事が忙しくなって海外赴任も決まったから、もう偶然会ったりすることもなくなるだろう。  得意の英語を生かした、国をまたいだ、予算の大きな仕事。楽しくて面白くて忙しくて、日々は嵐のような勢いで過ぎて行った。  
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