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「そいつは御見それいたしました。いとも賢き王子様、雨が降り、背に日が照ると虹が出る。さすれば今は出ますかな。虹は今出ますかな」
西日は聴衆の後ろから照っているものの、浜はからっと晴れていて雲一つない。
「出ない……と思う」
男の口ぶりだといかにも出そうな感じがする。王子もそれを察してか、自分が言ったとおりにならないのではないかと思ったようで手を挙げた時のような元気の良さは無かった。
「知恵ある王子、聡き民、虹が出ぬのは道理、道理。さても道理を反す技、小さく弱き芸なれど、不思議をその目で御覧じろ」
男はチョンチョンと拍子木を二回鳴らして右の手のひらを天に差し向けた。
空気がそこだけ膨張したように歪んで見えた。頬にかすかに冷気を感じた。
男が舞うように手首で円を描きながらゆっくりと振り下ろすとその軌跡にそって光の帯が現れた。
「……出た」
王子もナギも、そこにいた全員が口をあんぐりあけて男の手を見守った。
男は両手を挙げて大きく両腕を開くと人垣の端から端まで届く大きな五色の橋がかかった。
「王子様、お手を拝借」
男が胸の前で手を合わせた。王子も同じように手を合わせる。そこでナギは自分が王子の手を放してしまっていることにようやく気付いた。
合わせた手をゆっくりと開き、大事なものを捧げ持つように手のひらを上に向けた。
王子もそれに倣う。すると今度は王子の手のひらに小さなかわいらしい虹が現れた。
王子は大きな目をますます見開いて、自分の手のひらの中にあるものを見つめた。
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