第9話 天嶮の南

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 目的地は礫砂漠のほとりの小さな町の、さらに町外れにつくられた野営地だった。  同道者の中に、到着した安堵で気が抜けてしまったのかすぐに危篤になる者が出た。頭巾のついた黒い衣をまとった教導師の弟子たちが現れて、危篤になった病人を天幕の中の寝台に運んだ。  そこに金の縁取りの入った真っ白な長衣を着た教導師が現れた。意外にも若くか細い女だった。その横には袖に銀糸の縁取りが付いた高位の弟子らしき男が注ぎ口のついた玻璃の瓶を捧げ持ってかしこまっていた。瓶の底にはとろみのある液体がわずかばかり溜まっていた。  教導師は片袖をまくりあげた。指の先には水色の石が光っていた。 「ちらりとしか見えませんでしたが、あの石と同じものだと思いました」  石が額に押し当てられると苦しみにゆがんでいた病人の顔がみるみる穏やかになっていった。元からの連れの者が寝台の横に座り、手を握るとかすかに握り返して、静かに病人は逝った。  教導師は石を瓶の中に落とすとぶるぶる体を震わせ、白目をむいて後ろに倒れた。こうなることがわかっていたように弟子たちは教導師を抱きとめて、天幕の外へ連れ出してしまった。病人たちは早く自分も奇跡にあずかりたいと残った高弟らしき男につめよった。  男はにこやかに「教導師様は魂を導く難行にお疲れです。これは大変なことで、教導師様とて日に何度も行えるものではありません。しかし、あなた方の苦しみを和らげることはできます」と言って病人たちをその場に座らせた。そして玻璃の瓶の注ぎ口から液体をひとたらしずつ、頭に振りかけていった。  病人たちは感極まって泣きわめき、それ以外の言葉を無くしたようにエル・ワ・ア・セイラと叫びあった。  興奮が天幕の中に充満した。病人の連れたちも次第に熱狂にひきずりこまれ、同じように一つの言葉を繰り返しはじめた。  虹売りはどうしたものか戸惑ったが、高弟の男が見ているのを感じて、皆と同じようにエル・ワ・ア・セイラと唱えて地に額づいた。
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