第10話 翼なき者

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「どうやって?」 「空気より軽い気体を袋につめてそれを空に浮かべて乗り込み移動するのでございます」 「……はぁ」  にわかには信じられない。そんなもの見たことも聞いたこともない。人が空に浮かぶとはどういうことなのか、全く絵が想像できなくてナギの口は半開きになった。 「ひとまず、そのようなものがあるのだとお思い下さい。その人々の中に、翼の刺青を見たおぼえがあるのです」  ナギは半開きになった口を慌てて閉じた。 「そ、それではそのキシという人々が教導師と関りがあると?」 「そういう想像は致しました。しかしキシは内々に厳しい掟を持つ人々でございます。教導師のような、見知らぬ多くの人々と関わるやり方を好みません」  内々に厳しい掟を持つということは、それだけ閉鎖的だと言うことだ。 「なにもかも、わからないことばかりでございますが、性質の違う二つの集団に、どちらも石が関わっているということは、それだけ広く、あの石が流れていることが考えられます」  なるほど、これは領主としては知っておいた方がいい話だ。  虹売りは石の件を深代に伝えるために北へ向かった。季節はまだ冬にさしかかったところで、天嶮を越えることができず、雪がとけるまで南麓の町の親分の軒先を借りることになった。  ある時、親分のもとに客人が訪ねてきた。なんでも古くからの知り合いらしい。親分は虹売りに客をもてなすように命じた。 「その客人というのが、教導師の高弟を名乗る男によく似ていたのでございます」  教導師の一団にいる時のようないかにも禁欲的な黒い衣ではなく、ざっくばらんな格好だったが姿かたちも、声もそっくりだったという。 「私どもも驚きましたが、あちらもかなり驚かれたようで……しばらく見合っておりましたが、どこかでお見かけしたようなと申しましたら、知らぬとおっしゃいました」  知らないと言われれば、虹売りにはそれ以上詮索もしようもない。なのでこの男が教導師の高弟なのかどうか本当のところはわからない。 「その方の背中には刺青はありませんでした」  さらりと流したが、背中を見たということはそういう『もてなし』だったのだろう。 「は、はぁ……それでは教導師の一団が直接キシであるというわけではなさそうですね。それに……その教えの方も」 「はい。まやかしである疑いが強まりました」
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