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第1話 虹を売る男
「とざい、とうざい」
祭りの雑踏に口上が流れた。若い男の声だ。張り上げるでも、力強くも無い。風にかき消されてしまいそうな弱弱しさだが、不思議とよく通り、耳馴染みがいい。
続いて小気味のいい拍子木の音が聞こえると、ナギが握っていたラン王子の手がぱっと離れた。
「ラン様!」
二つに分けた金色のおさげ髪がぴょこぴょこ跳ね回る。
「お待ちくださいラン様!」
ラン王子はナギの言うことなど聞く耳持たない。するすると人波をぬけて行く。
五歳年下のラン王子のお世話係になってから半年あまりだが王子には振り回されっぱなしだ。とにかくじっとしていない。目を離すとすぐにいなくなる。
浪切は北都ほど大きな町ではないから、祭りの人出といっても押し合いへし合いするほどでもないが、浜から少し沖にある小島の社に足を濡らさず歩いて渡れるのはこの日だけということもあって、なかなかの賑わいだ。
島の社は子授け、安産にご利益があり、なかなか子どもに恵まれなかったレイ王妃が社に参詣してラン王子を授かったということになっている。二人目の子どもを望む王妃が王子を連れてお参りにきたのだが、王子が大人しくお籠りしているわけがない。ナギをお供に出店でも見て遊んでいなさいということになったのだった。
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