19人が本棚に入れています
本棚に追加
8
最後のデートは映画館だった。
「初めて二人で観た映画、まだ上映してたよ」
その人は、呑気にそんなことを言った。
「そう」
私は気の無い言葉を返した。本当は、そんな映画観たくなかった。
この先、どんな気持ちで、その映画を観ればいいというのか。私達の恋の始まりと終わりを彩る映画だなんて。
結局、私は映画を観る振りをして、ずっと、その人の横顔を眺めていた。
映画館を出た後、前と同じカフェでお茶をした。
だけど、私達が交わすべき言葉は、もう何も無かった。
運ばれてきたコーヒーに、一口だけ口を付けると、私は席を立った。
「さようなら」
別れの言葉は、私から告げた。そして、
「今もあなたのことが好きです」
変わらぬ愛の言葉を、最後の言葉に、私は一歩、前に踏み出した。
おしまい
最初のコメントを投稿しよう!