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8 ヨソモノの秘密
「えーと…。私から報告があります。」
さっきはあんなにボロボロになって泣いてた由香里だけど、今は落ち着いているように見える。珍しく直也も家にいて家族全員が揃った夕食の最中に由香里は突然立ち上がって話し始めた。
「私と秀人は婚約を解消しました!だから当面の間?もしかしたらずっとかも知れないけど?この家で暮らします!以上!」
そう一気に話すと由香里はまた席に着いて食事を再開した。マイペースな感じを装ってるけど、テーブルの下で由香里の足が震えてるのが見えた。
「え?!」
「まぁ!」
「は?!」
由香里の報告に対してお父さん、お母さん、直也はそれぞれ驚きの声を発していた。お父さんもお母さんもまだ何か言いたげな表情だ。
「婚約解消って、何で?!」
直也だけはド直球に訊いてきた。まったく直也は本当にデリカシーがない!お母さんは直也を「ちょっと控えなさいな。」とたしなめたが、直也は引き下がる様子はない。
「だって姉ちゃんと秀人さんは猫がうちの病院に通ってたときからの長い付き合いだったし、両方の親にまで結婚の挨拶に行ってたじゃん!それなのに婚約解消だなんて…。」
「秀人に好きな人が出来たからよ。」
由香里は直也の言葉を遮って答えた。
「と言うか…ずっと相手のことを好きだったんだけど友だちのまま続いてて、最近その想い人から『秀人の幸せを願って身を引くつもりだったけど気持ちだけは伝えたい』って言われて、長い両片想いだったことが分かったわけ。それで私とは結婚できないってことよ。以上!」
由香里の2回目の「以上!」が出た。それでも直也は詰め寄ってくる。
「姉ちゃん、それで良いの?!」
「あんた、しつこいわね!!良いわけないけど仕方ないじゃないの!!だって…秀人の恋愛対象は本当は男性だったんだからっ!!!」
「…っ!」
すごい剣幕で由香里は捲し立てた。お父さんもお母さんも直也も驚きのあまり固まってるわ。あたしも驚いちゃった。人間って複雑なのね。
「アウティングなんて私は人として最低ね。秀人の性的嗜好については絶対に口外しないでよ!特に直也!あんたがしつこく訊いたのがいけないんだからねっ!」
「う…、ごめんなさい。」
その後、夕食は続行したが誰も一言も発しなかった。
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