1 保護猫

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1 保護猫

 あたしの名前はルナ。  今はお父さんとお母さんと由香里(ゆかり)直也(なおや)と暮らしてる。美味しいごはんもちゃんと食べられるし、お風呂って言うのは嫌いなんだけど身体もきれいにしてもらえるし、トイレだっていつもきれい。おもちゃもあるし、お手々がムズムズしたらガリガリして良いものもある。  あたしがもっと小さかった頃は、よく覚えてないけど、たくさんの仲間がいた。あたしはママからおっぱいをもらってたけど、ママは食べるものが何もないことも多かった。身体もかゆいし、臭いし、トイレも汚いし、お部屋も薄暗いし。小さかったあたしは大きなおにいちゃん、おねえちゃんに叩かれたこともあった。  とにかくもう二度とあそこには帰りたくない。まぁよく覚えてはいないんだけど。  そんなところから助け出してくれたのが今のお母さんたち。  何故かママがいなくなって、いつもやんちゃで部屋中引っ掻き回してた仲間たちもおとなしくなってたある日、急に部屋が明るくなって、見たことのない人たちが入ってきた。  仲間たちはみんな喉もカラカラ、お腹ペコペコだったけど、身を守るために身体の大きなおにいちゃんやおねえちゃんは急に入ってきた人たちに抵抗したわ。あるだけの力を振り絞って抵抗してたけど、すぐに捕まってた。あたしは小さかったから抵抗する力もなく、部屋から運び出された。  そのあとは何やら苦い水を口から注ぎ込まれたり、何やらチクっと刺されたり、目を開かされて何か冷たい雫を入れられたりもしたけど、美味しいミルクを飲ませてもらったし、身体もきれいにしてもらったし、ふわふわしたところで眠れるし、あの薄暗い部屋にいたときより断然良かったわ。ママに会えなくなったのは寂しかったけど。  あたしやあの薄暗い部屋にいた仲間たちは【保護猫】と呼ばれてるらしい。あたしにはよく分からないけれど、あたしたちを保護した人たちが話していたのが「あの家のお婆さんが、生前に捨て猫を数匹連れ帰った結果、多頭飼育崩壊(たとうしいくほうかい)したようだ。助け出せたのは7頭。室内の状況からして、死体を食べて生き延びていた子もいるみたいだった。なかなかつらい現場だったよ。」だって。  
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