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8 終章(令和)
「『失われた雨姫村の悲劇〜悲恋 美しき愛』荻生先生やりましたね。企画を聞いた時は地味なテーマだと思っていたんですがね。村の悲劇を恋愛と絡めたせいかか……売れましたよ! 再販です!」
編集者の言葉に荻生が苦笑した。
誰がなんと言おうと、それが雨姫山の真実なのだ。
あの木簡が証明している。
この本を出すことによって、勘違いされ、恐れられている雨姫が。いや、三弥が、愛情深い一人の女性であることを世間に知らしめることが出来たのならば、自分がこの仕事をしている冥利に尽きる。
少しばかり休もうかなと思っていた荻生に、編集者が言った。
「荻生先生、次の取材にこれはどうですか?」
資料を手渡しながら言う。
「静森山の毒沼事件」
資料はよくまとめられている。
興味のなさそうな編集者が自分よりも伝承に興味を持ったことに、荻生は笑う。
この編集者と山巡りをすることが多くなりそうだ、と思ったからだった。
〈了〉
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