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「ウサミ君、ウサミ君、ウサミ君」
歩き続けて足の裏の豆がつぶれた。松茸をたくさん入れた籠の肩ひもが肩に食い込んで痛い。
「ウサミ君、どこにいるの? ウサミ君、ウサミ君!」
ワタヌキの頬から涙がぽろぽろとこぼれる。心細い、さみしい、悲しい、つらい。
甘くて臭い独特の香り。年甲斐もなく嗚咽を上げて泣いてしまうのも、この変な匂いのせいだろう。胸がきゅんとなるような、全身に微弱な電流が走るような気分になる。
「待って……!」
すぐ目の前に人影が横切った。霧で見えなくなる前に追いつきたくて、ワタヌキは走り出す。そして
「ぎゃっ!」
木の根に躓いて転んだ。見上げると、周りの木々がこちらを嘲り笑っているようでゾッとした。
人影は立ち止まって、それからこちらに向けてゆっくりと歩き出した。
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