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「おい! ワタヌキ! しっかりしろ!」
ぐったりと横たわるワタヌキを、ウサミは抱き上げた。
「う……」
ワタヌキは、苦しそうに小さくうめき声をあげる。前髪が汗で額に張り付いている。長いまつ毛に彩られた青みがかかった黒色の大きな目はうるんで、赤い唇は苦しそうに震えていた。
「熱い! すごい熱だ」
少しでも熱を逃がそうと、ウサミはワタヌキのシャツのボタンを開ける。
「こんなもの……!」
ワタヌキが背負っていた、松茸の入っている籠を取り外して蹴とばすと、コロコロと、たくさんの松茸が、地面の上……群生している松茸の上にばらまかれた。
「大丈夫か? ワタヌキ、おい、ワタヌキ!」
揺するが、返事がない。熱が高すぎる。まずいぞ、熱さましなんて持ってない。早く下山して医者に診てもらわないと、死んでしまうかもしれない。
ウサミはワタヌキを背負うと、白い霧の中を下に向かって一歩、一歩と歩き出す。
そのとき、生暖かい風が吹いた。あの、臭くて甘ったるい風が。
「うふ……あははははは!」
「……ワタヌキ? おい! やめろ!」
背中に背負ったワタヌキが暴れ出した。ケタケタと、笑い声をあげて。おさえきれなくなって、ウサミは思わず手を離してしまう。ドサ、とワタヌキは群生する松茸の地面の上に落ちた。
「ごめん。おい、大丈夫か?」
返事はなく、かわりにワタヌキは妖艶に微笑むと、ウサミを押し倒して
「ん!?」
キスをした。口の中に舌を入れて、口内をくちゅくちゅと搔きまわす。
「ぷは! おい、なにすんだワタヌキ!」
「くすくすくす。まんざらでもない癖に」
「なっ……!」
ワタヌキははだけたシャツを脱ぎ捨てると、挑発するように少年のような薄い胸板をウサミに見せつけた。
「もう、この山から下りられないの、ウサミ君も分かってるでしょ? くすくすくす。だったら、最期にヤりたいことやろう? ね?」
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