白い墓

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世の中の不条理には慣れたが冷めた飯を食うのは嫌だ。 育ててくれた祖父が料理が上手で、あったかい食事が楽しみだった。 だから俺は、この会社に勤務している。 電子レンジがあるからだ。 これで昼食は温めることができる。 「高田 (たかだ)くん。君が飲んでる、その赤いのってなに?」 「は?」 俺の隣のデスクで仕事をしている後藤 (ごとう)さんが聞いてきた。 「たぶん、ビタミン系の何かしら?だと思います」 俺は改めて自分の飲んでるペットボトルを眺めてみた。 「そうなんだ」 納得できたのかどうかわからないまま、後藤さんは仕事を再開し始めた。 俺もよくわからないまま飲んで、仕事を再開し始めた。 後藤さんが来てからは仕事量が少し減った気がする。 彼の場合、なんていうか感情が元から無いみたいな。 そして高性能ロボットじゃないかと思うほど、どんな状況にも流されずに 仕事をこなしていく。 しかも猛スピードで。 PCのキーボードを打つときなんて速すぎて残像で指が何十本にもみえる。 「おい、オッサン!まだできねえのかよ!こっち進められないだろ!」 「できてるよ」 職場に就いた長さでなら先輩の木口 (きぐち) さんが怒鳴ってきた。 そしていつものと同じように後藤さんが返事をしてきた。 後藤さんは何故か誰にも敬語を使わない。 それ以外は完璧だからか、社長は何も言わない。 そもそも先輩も仕事はできるほうだから社長は何も言わない。 来客が来ると事務員と間違われるほど風格の無い初老の社長は、先輩の 暴言を咎めない。 木口先輩のパワハラのせいで、誰がきても数週間や数日で辞めていく。 女性職員が号泣しながら半日で辞めたというか逃げ出したこともある。 そして俺は「アニメのキャラみたいな髪してんじゃねーよ!」 と、言われた。 俺が右半分の前髪を長くしているからだ。 俺は俺で仕事はちゃんとこなしているので、もう突っ込むところが それしかないのかと、ちょっと面白かった。 俺は後藤さんとは違う方向性で感情がないというか。 半ばヤケクソで生きている。 だから木口先輩の暴言にも胸を痛めない。 母型の祖父が亡くなったときに......。 その墓の下に俺の感情も人生も押し込めてしまったからだ。
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