白い墓

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そのあと、カプセルホテルに泊まった。 そして朝になって会社に出勤してみた。 後藤さんが座っていた、俺の席の隣のデスクは......。 書類やらファイルやらが山積みになった物置きと化していた。 そして木口先輩がパイプ椅子を投げつけた筈のPCは、壊れていなかった。 後藤さんが入社してきた......という事実は無く、そのせいで取引先が 何件か減っている。 もちろん木口先輩も後藤さんの話題は出してこない。 後藤さんはいなかった。 そういう世界にになっている。 いや、それは違う。 俺は確かに、後藤さんと一緒にいたのだ。 「社長、社長が、やる気が起きないのは、後を継がせるつもりだった 息子さんが、10年前にバイク事故で亡くなったからですよね」 立派とはいえない社長用のデスクの席から、社長が立ち上がった。 「高田くん......!なぜ、なぜ君が、それを知っているんだ?」 やはり......そうだった。 パイプ椅子を投げつけた事件。 あれが本当にあったからこそ、俺は、社長の悲しみを知っているのだ。 「社長、もう、曖昧な気持ちで会社を続けるのはやめましょうよ。 木口先輩をクビにして、俺と2人で、会社を立て直してみませんか?」 「はあっ?高田、なに言ってんだ!てめえ!」 「あんたに人の心がわずかでもあるなら、 いままでの暴言を反省して、ここから立ち去れ!」 そこへ社長が立ちはだかった。 「そうだね、木口君、もうやめてくれ。うんざりだ。 そして会社はたたむよ。 だけど高田くん、君の働き口だけは必ず紹介する」 社長がやっと真っ直ぐな目をして言ってくれた。
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