白い墓

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「会社をね、もうそろそろ、たたもうかと思ってたところなんだ。 だから、まあ、いいよ」 いつもしょんぼりした風の社長が更にしょんぼりと言ってきた。 うちは少ない取引先との納期を、絶対的に守る信頼関係で成り立っている。 それらのほとんどを中途段階で断るしかないのだから......。 たたむしかないだろう。 俺はただ、デスクに座ってそれを聞いている。 後藤さんは壊れたPCをひたすらいじっている。 木口先輩は無言で立ち尽くしている。 「私はね、息子に会社を継がせて退くつもりだったんだけどね。 その息子が......バイク事故で7年前に死んでしまったんだよ。 木口くんや高田くんが入社する前のことだ。 いや、だからねえ、もういい、もういいや、なにもかもどうでも」 これにはさすがに後藤さんも手を止めた。 俺は気の毒に思いながらも冷静に聞いた。 木口先輩が俺のほうを睨んできた。 「それって、あまり理由になってませんね。 この会社が潰れるのは木口先輩の横暴さからですよ。 それもどうでもよかったんですか?」 「そうだね......」   立派とはいえない社長用のデスクで、社長が肩を落とした。 「後藤のオッサンのモラルの無さには何も言わないのかよ、 敬語は使わないし」 木口先輩が謝罪もなにもないまま、言った。 「だからって、椅子を投げていいんですか? 後藤さんは死んでたか大怪我だったんですよ。 あのね、木口先輩、人の身体って、 モノが激しく当たるとこうなるんですよ」   俺は、初めて自分の長い前髪を上げて右側を見せた。 「これね、子供の頃に父親に殴られ、てフッ飛ばされたときの怪我です」 俺の右側の額から目の下まである傷を見て、誰もが言葉を失っていた。 「社長の息子さんは、もっと激しくぶつかって亡くなったんですよね」 社長のすすり泣く声と、室内の空調の音が、ただ響いていた。
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