白い墓

5/17
前へ
/17ページ
次へ
「後藤さん、そっちじゃないっすよ」 「こっち?」 「そっちはもっと違いますって!」 俺はおもわず、後藤さんの背広の袖を引っ張って制した。 渋谷の道玄坂は入り組んでいて、夜が更けるともっとカオスになる。 坂を上れば上るほど、角を曲れば曲がるほど、景色の色が変わっていく。 薄汚れた飲み屋、古びた建物、無料案内所の派手なインパクト。 老舗のライヴハウスがあったり、いきなりラブホ街が出現したり。 とにかく自分らがどこにいるのか、行き慣れてないと迷うもんだ。 「後藤さん、後藤さんっ、ラブホ方面はまずいっすよ!」 ほら早く、と、俺は無言でジェスチャーして後藤さんを促し、坂を下りて 通常レベルの地帯まで移動した。 「高田くん、あっちは?」 「いや、そっちはライヴハウスしかないっすよ。 てか、すんません、俺から飲みに誘ったのに......。 おかしいなぁ、前に来た店がこの辺だった気がしたんだけど」 後藤さんもアレだが、俺は俺で渋谷を知らなさすぎた。 普段、通勤以外でうろつかないからなあ。 せっかくだからじっくり話してみようかと思い、道玄坂で飲みませんか? というのは、安直すぎたか。 「高田くん、じゃあ、あれは?」  後藤さんが今度は目の前の建物を指差してきた。 「あれは......いや、なんすか?あれ」 そこは形容し難いことになっていた。 一階建てで、無機質なコンクリート壁で、窓の付いていない二階建て くらいの建物があって、ほのかなオレンジ色を放ち、点滅していたのだ。 なんだコレ?中ではなく、外側が光っている、電飾も付けてないのに。 なんでだ? 「いやいや、不気味すぎ」と、俺が通り過ぎようとしたら 「ちょっと入ってみようか」 と、後藤さんが躊躇なく建物のドアを開けた。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加