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「……出てこないな」
「この猛吹雪の中、窓に激突したUFOだからね。最悪死んでしまっていても、おかしくはない」
その言葉を聞き、あまりの展開に呆然としていた田中少年が我に返りました。
「なんですって! つまり今回の第一の殺人は宇宙人が被害者だということですか!?」
「いやあ、流石にこれは墜落事故だろう。殺人の線は疑わしい。なあ木戸君?」
「犯人はUFOに細工をしていたのかもしれません。或いはこのUFOは偽物で、そういう趣向の見立て殺人なのかも。ですよね先生?」
「はっはっは、宇宙人が殺人事件の被害者とは斬新だね。そういったSFミステリも探せばあるかもしれないが……ひとまず本当に死んでいるのか確かめてみようじゃないか」
我らが名探偵木戸彦太郎は勇敢にもUFOの中に入り込み、しばし後何かを抱えて皆の前に戻ってきました。
皆が彼の腕の中に注目すると、そこには気を失ったカワウソのようなイタチのような、なんとも珍妙な獣がいたのでした。
「あら可愛らしい」と呟いたのは水鳥川夫人。
夫人の云う通り、茶色くぽわぽわふあふあした毛並みで、丸っこい頭がなんとも可愛らしい獣です。
「この獣はなんでしょう。宇宙人の愛玩動物でしょうか」
「ところが他に生命体の気配はなかったんだ。論理的に考えればUFOの主はこのラッコだということになるね」
「なんですって、この獣が宇宙人!?」
「これがラッコ? あの毛皮の?」
「こんなに可愛い生き物だったのねえ」
皆の騒ぎが聞こえたのかラッコは目をさまし、おめめをくしくしとこすりました。
「あ、起きた」
「仕草も可愛いわ」
ラッコは辺りを見回して大層驚き、ばたばたと手足をばたつかせて探偵の腕の中から逃れようとしました。
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