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慌てて人々が水鳥川氏の元へ向かうのを見送ると、木戸探偵は雪男の方へ向き直りました。
もはや雪男の視界は回復しており、その目は怒りで燃えています。
「先生、雪男の奴こっちへ向かってきますよ」
「いきなりノコギリで叩かれて目に血が入ったのだから、怒るのも無理はないだろうね」
すると、今まで話の聞き役でしかなかった警部がここぞとばかりに銃を取り出しました。
一発二発と撃ちましたが、効いている様子がありません。
「まずいな……拳銃じゃびくともせんぞ」
いくら我らが木戸彦太郎がチート級の強さを誇る名探偵必須の武術バリツの使い手であるといえども、これでは分が悪いと云わざるを得ないでしょう。
それでも我らが名探偵木戸彦太郎は慌てず騒がず、ポケットから平べったい石を取り出して見せました。
「な、なにぃっ!? それは我の宇宙船のリモコンではないか!?」
ラッコは慌てて秘密のポッケを探りましたが、勿論何も出てきません。
「流石先生! こんなこともあろうかとお掠め遊ばされていたのですね!」
「はっはっは。なに、実に簡単なことだよ田中君」
「人間には倫理観というものがないのかー!」
ちなみに警部は急に爪の横のささくれが気になった振りをしてやり過ごしています。
木戸探偵がおもむろに石を撫であげると、多少ぐらつきながらもラッコの宇宙船が飛来してきました。
「何故宇宙船呼び出し機能の使い方が分かったのだ!?」
「先生は天才ですからね!」
「ぐぬぬ……我は機械に疎いところが玉に瑕だからな……ここは任せておいた方がいいかもしれん……」
皆が見守る中、探偵は素早い石捌きを披露します。
「上上下下左右左右BA!」
「い、いきなり必殺ビームだとぉ!?」
宇宙船のエネルギーが収束してビームが……発射されるかと思いきや、なにやらバチバチと火花が見られるばかりで何も起こりません。
「故障してしまっているようだね」
「ぐお……? ぐおおっ!」
様子を見ていた雪男が宇宙船を攻撃しようとしてきましたが、そこは難なく避けます。
「よろしい、ならば最後の手段といこう」
「な、なにか嫌な予感が……」
「体当たりだ!!」
「のわ〜っ!!」
ラッコの叫びもむなしく勢いをつけて頭部にぶつかった宇宙船は爆破し、ついに雪男を倒したのでした。
「やった! 先生すごいです!」
「我の宇宙船が……」
嬉しそうに抱きつく田中少年を受け止めながらも、がっくり項垂れるラッコを哀れに思った木戸探偵は云いました。
「すまなかったね、ラッコ君。責任を持ってうちの事務所で君を飼ってあげようじゃないか」
「我を飼うだと!? なんたる不敬! もう貴様等なんぞに付き合ってはおれん、もっと話の分かるやつを探しに行く!」
大見得を切ってラッコは出ていきましたが、寸刻もしない内に寒い寒いと云いながら戻って来て、おててをおめめに当てました。
ラッコは手のひらに毛が生えてないので、おててが冷たいときよくこうして温めるのです。
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