第2話 幼馴染後輩ギャルとか属性盛りすぎだろ

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第2話 幼馴染後輩ギャルとか属性盛りすぎだろ

—1—  駅のホームで電車を待ちつつ、両耳をイヤホンで塞ぐ。  通勤通学ラッシュのこの時間は雑音が多い。  音楽を聴いているフリをして他人の会話に耳を傾けるのも小説のネタ集めとして悪くは無いが、今日はアニソンで気分を上げたい。  高校の最寄りの駅に着くまで、今期の深夜アニメのオープニング曲メドレーに浸るとしよう。  混雑する朝の時間帯は5分に1本の間隔で電車がやって来るので、程なくしてホームに入ってきた電車に乗り込む。  座席は埋まっていたので吊革を掴み、外の景色を眺める。  右から左に流れていく風景。  徐々に建物が無くなっていき、田畑が広がる平和な田舎の絵になってきた。   「秋斗先輩!」  肩をトントンと叩かれ、振り返ると同じ制服を着た少女がニッと白い歯を見せていた。  彼女の名前は望月里緒奈(もちづきりおな)。  1つ歳下の高校1年生。  親同士の仲が良く、幼稚園から高校まで同じという俗に言う腐れ縁だ。  サラサラの茶髪は胸の辺りまで伸びており、制服は校則なんてお構いなし。  ワイシャツのボタンは2個か3個くらい空いているし、スカート丈も結構攻めている。  本人曰く、可愛いは正義らしい。  服装だけではなく、容姿も華やかなため、小学生、中学生時代から非常にモテている。  が、不思議と彼氏がいたことはない。 「里緒奈も乗ってたのか」 「隣の車両に先輩いるなーと思って来ちゃった」 「そうか。それはわざわざご苦労さん」 「先輩、もう少し健気な後輩を労ってくれてもいいんだよ」 「そうだな。年齢=彼女いない歴のオレなんかに話し掛けて下さって誠にありがとうございます。いつも感謝してます。これでどうだ?」 「先輩、なんかいつにも増して捻くれてる?」 「うるさい。平常運転だ」  などと、くだらないやり取りを交わしている間に電車が目的の駅で止まる。  高校の最寄りの駅ともなると、知っている顔もチラホラと見かけるがそれは里緒奈も同じだろう。 「里緒奈、おはようー! 今日も可愛いね!」 「おはよう! ありがとう♪」  早速、女子グループに見つかり、笑顔で手を振る里緒奈。  見た目が派手というのもあるが、里緒奈には人を惹きつけるオーラがある。  そんな彼女がオレなんかと一緒にいたら変な噂が立ってもおかしくないが、里緒奈は特に気にする素振りはない。  誰に何を言われてもあくまでも幼馴染。  そう割り切っているのだろう。 「ほら、後ろが詰まるから先に行けって」 「あはは、レディーファーストってやつですか?」 「違うけど、まあそういうことにしておくか」  スカートが短い里緒奈は階段の下からだと角度によってはパンツが見えてしまう。  最近は女子高生を狙った盗撮被害も多いって聞くからな。  気を付けておいて損はないだろう。 「先輩、昨日の音楽番組観ました?」 「昨日はずっと小説を書いてたからテレビは付けてないな」 「またですか。好きですねー小説。彼女いないとか嘆いてるなら小説と付き合ったらどうですか?」  改札を抜け、同じ制服を着た生徒達と一時的に集団登校のような形になる。  高校までは徒歩15分〜20分。  歩くスピードも登校経路もバラバラだからその内疎らになるはずだ。 「小説は自分の分身みたいなものだからな。時間を注げば注いだだけそれに応えてくれる。強いて言うなら彼女じゃなくてライバルだな」 「相変わらず凄い熱量ですね。少し暑苦しいです」  わざとらしく顔をしかめて、里緒奈は興味無さそうに風で崩れた前髪を櫛でとかし始めた。 「里緒奈だって音楽に対する熱量は同じだろ」 「それはそうですけど……そうですね」 「その間はオレと一緒にされるのが嫌そうな間だったな」 「あはっ、バレました」  里緒奈は小学生の頃から独学でギターを弾き始め、カバー曲を中心に『歌ってみた動画』を動画投稿サイトにアップしている。  活動名はローマ字で『RIONA』。  顔出しはしておらず、ギターを弾くシルエットだけを映している。  最近ではオリジナル曲も制作しているらしい。 「あっ、そうだ。先輩、今日先輩の家に遊びに行ってもいいですか? 借りてた漫画の続きも読みたいですし」 「今日はダメだ。予定がある」 「え、授業が終わったら直帰して永遠とパソコンカタカタしてる先輩に予定ですか?」 「なんかオレのイメージ悪くない? まあ概ね当たってはいるんだけど。じゃなくて、里緒奈今日は何日だ?」 「6月25日ですけど」  里緒奈がスマホの待ち受け画面で日にちを確認する。 「そう、毎月25日はラノベの新刊発売日だ。よって、オレは書店に行く」 「ラノベの新刊と私でラノベを選ぶんですか?」 「今月は続刊タイトルも新作も豊作なんだ。ラノベ好きとして発売日当日に購入するのは当然の事」 「先輩に彼女ができないのはそういうところだと思います」  里緒奈がぷいっとそっぽを向いてしまった。  なぜ、幼馴染にここまで言われなくてはならないのか。  まあ、誘いを断った手前、これ以上言い返すのはよくないだろうな。  オレにもそのくらいの判断はできる。 「おっ」  正面に顔を向けると自転車に乗った藤崎さんが高校の正門を潜って駐輪場に向かう姿が見えた。 「あの人、誰ですか? 凄く可愛いですね」 「クラスメイトだ」 「先輩、もしかしてあの子のことが気になってるとか?」  ジト目で里緒奈がオレの表情の変化を観察してくる。 「ただのクラスメイトだ。それ以上でもそれ以下でもない」 「ふーん。嘘は言ってないみたいですね」 「人の顔を見ただけで嘘を言ってるかどうか分かるのか?」 「先輩は顔に出やすいですから」  里緒奈の前では発言に気を付けた方が良さそうだ。 「じゃ、ここらでそろそろ」 「はい」  学年が違うと下駄箱の位置も離れているため、手を上げて里緒奈に別れを告げる。  オレは返事をした里緒奈が去り際に寂しそうな表情をしたのを見逃さなかった。 「里緒奈、放課後一緒に書店行くか?」 「行きます!」  待ってましたとばかりに即答する里緒奈。  満開の笑顔を見せると、嬉しそうに自分の靴箱の方へ駆けて行った。 「なんで書店に行くくらいでそんなに嬉しそうなんだよ」
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