さらに一回…。

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さらに一回…。

 8月も盆明け、途端に何もかも嫌になった。  來美に食い殺される人生は御免だ。まとまった額を手切れ金として渡し、自由になりたい。  住宅街を歩いていると、いかにも裕福そうな家があった。  二千万も稼げれば、手切れ金には十分だろう。  今までは禁じていた現金にも手をつけて、なんとしてでも二千万稼がなくては來美に骨まで吸い尽くされる。  まずは外から観察。  防犯カメラは玄関に一つ。庭にそれらしきものはない。  犬もいない。人がいる気配もない。子供も⋯⋯いない。  完全に留守とみていいだろう。隣家は雨戸を閉めてある。侵入するなら庭のあの扉一択だ。  警備会社のシールはない。念のためあと一回防犯カメラを確認して、すぐ逃げる用意をしてピッキングツールで扉を開ける。  警報は鳴らない。  それでもまだ逃げる用意をしながら、家の中に入ってみる。  なかなかの調度品、絵画や壺も本物じゃないか?  まあ、そういったかさばるものは持っていかない。今回は現金、宝石、利用価値のあるハードディスク、それに絞ろう。  金庫があった。  手早くそれを開けると、現金で三千万弱あった。  宝石もいただく。どうやらこの家の主はダイヤモンドが好きなようだ。小粒だが、量がある。金塊がなくて安心した。あれには嫌な記憶がある。だが目の前に金塊があれば盗ってしまいたくなるのが人の性だから、なくて良かった。  リュックに現金三千万とダイヤモンドを詰め込む。これだけあれば五千万ぐらい稼げるだろう。あとはハードディスクだが、探してる時間もリスクが高まる。ここで退散しよう。  部屋の中から庭を見て、隣家と通行人を確認。  人の気配がない今、逃げるチャンスだ。  再度防犯カメラの角度を確認し、撮られないように邸宅を後にする。  仮に來美がゴネても、三千万あれば別れられるはずだ。  今夜の食事会で結婚しないことを伝え、金を渡してさよならするのだ。
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