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33話。王妃が英雄ヴァイスを救出せよと命じる
このままフィアナのペースに乗せられては危険なので、俺は慌てて話題を反らすことにした。
「あ、あれ? そう言えばギルベルトは、もう帰ったのか?」
セリカの護衛を頼んだギルベルトの姿が見当たらなかった。
生徒会にセリカを引き渡した時点で、もう役目は終えたと判断したのか?
「ギルベルト君は、ヴァイス君救出の応援を頼みに、職員室に行ったわ。先生たちは、地下12階層の突入に対しては、入念が準備が必要だって難色を示しているみたいね」
セリカが憤りながら告げる。
まあ、それは仕方がないだろう。学園の厄介者である俺を助けるために命を賭けようなんて教師がいるとは思えない。
「……そうだよな。生徒を誰よりも大事にするフィアナだからこそ、俺を助けに来てくれたんだものな」
傲慢な学園の女帝であるフィアナだが、その実、【高貴なる者の義務】の精神を体現した誇り高い少女であることを俺は知っている。
ゲームでの彼女は、生徒が命の危機に瀕したら、必ず手を差し伸べた。
「フィアナに助けを求めて、本当に良かった。ありがとう、フィアナは誇り高き最高の生徒会長だ」
「うん、それはそうよね! 私も感謝しているわ」
「はい、私もその点に関しては、兄様のおっしゃる通りだと思います。フィアナ様、感謝いたします」
セリカとエレナも同意して、頭を下げた。
「ヴァ、ヴァイスさん! やはりヴァイスさんはわたくしのことを良くわかってらっしゃるのですね!」
フィアナが瞳をキラキラさせて、俺の両手を掴んだ。美しい顔がドアップで目の前に迫って、俺はドキッとしてしまう。
「やはり、わたくしたちは運命の赤い糸で結ばれているのですわ!」
「いや、なぜ、そうなる!?」
フィアナの思考回路は、ぶっ飛び過ぎだ。
「ちょっとフィアナァァァ!?」
「フィアナ様、何をなさっておいでですか!?」
セリカとエレナが、憤激してフィアナを引き剥がしにかかった。
「わたくし、決めましたわ! ヴァイスさんとは何があっても、再婚約いたします! だから、シルフィード伯爵家の奥義の修行にもお付き合いしますわぁあああッ!」
「えっ、ええええ!? そ、それは困る!」
「良いではありませんか!? 我がブレイズ公爵家お抱えの鍛冶師が、ヴァイスさんの専用武器を作って差し上げるのですし、両家はまさに蜜月の関係ですわ!」
フィアナは強引にセリカとエレナを押しのけて、俺に抱き着く。
「お父様もきっとお許しになってくださいますわ!」
いや、風魔法の奥義の修行にフィアナを付き合わせたことが知られたら、娘を溺愛する誇り高きブレイズ公爵は、多分、俺を火あぶりにする。
「くっ、フィアナ会長、それ程までヴァイスに特別扱いを……!」
レオナルドが悔しそうに歯噛みした。
その時、軍馬の蹄の音が轟いた。
「なんだ? こんな時間に、騎士団!?」
騎士団が出動するのは、魔物の大量発生や魔族が出現した時だ。
何事かと俺たちは、窓の外を見る。すると、月明かりに照らされて駆ける騎士たちの姿が見えた。その先頭にいるのは……
「シルフィード騎士団団長、アルバン・シルフィード! 我が息子、ヴァイスの救出に参ったぁああ!」
「ええっ!? お、お父様!?」
エレナが窓枠に張り付いて驚愕する。
俺もこれにはビックリだ。
「あっ!? 中央の馬車は紫! あれは学園の理事である王妃様の馬車ですわよ!?」
「はぁああああッ!?」
「王妃様がなぜ!?」
俺とセリカに激震が走った。
王妃こそ、大魔族ジゼルと手を組んで王国に争乱をもたらす黒幕であり、セリカの仇敵だ。
王妃の一団を出迎えた学園の教師陣も泡を喰っている。
「王妃様が御自ら、何用でしょうか!?」
「アルバン様、これは一体、どういうことでありますか!?」
先頭の父上が、校門前に到着して大声を張り上げた。
「スティング侯爵家のご子息ギルベルト殿から連絡があった。大魔族ジゼルの下僕が学園に入り込み、恐れ多くも王女殿下のお命を狙っているとな! 我が息子ヴァイスが盾となって王女殿下をお守りしているというのに、貴殿らは何を悠長にしておられるか!?」
これはギルベルトが、俺を助けるべく父上に連絡を送ってくれたのか。まさか、父上が救援に駆け付けてくれるとは思わなかった。
ギルベルトには感謝しなくちゃだが、なぜ王妃まで一緒にいる?
「いえ、その情報については真偽不明であり、目下、調査中でありまして!」
教師たちがしどろもどろで弁明する。
まぁ、今朝、素行不良の落第生の俺がもたらした情報だから、真に受けている者の方が少ないだろう。
だが、父上は教師たちを一喝した。
「ヴァイスは敵の情報を掴んでいるらしいではないか!? ろくに事情も調べず、ヴァイスを見殺しにするなど、王国にとって大変な損失であるぞ!」
「そうです。王女セリカを救ってくれた王国の英雄ヴァイス・シルフィード殿の救出に今すぐ向かいなさい!」
さらに馬車から顔を出した王妃イザベラが、教師たちに命じた。豊満な身体をした美しき毒花といった印象の美女だ。
「あ、あのヴァイスが王国の英雄ぅううッ!?」
教師たちは仰天し、言葉を失っていた。
それは俺も同じだった。
俺を助けるだと……? 王妃め、一体何が狙いなんだ?
ゲームシナリオから、完全に外れた展開が起こり始めていた。
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