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34話。王妃の罠を機転で切り抜け、王女を守る
「お、王妃様が、ヴァイスを英雄視しているだと!?」
レオナルドが愕然としていた。学園中が一気に騒然となる。
俺は王妃の狙いを確かめるべく校門に向かうことにした。黒幕の王妃が、こんな序盤から姿を表に見せるなど、考えられない事態だ。
「ちょ!? ヴァイス君、私も行くわ!」
セリカも困惑しながら、後をついてくる。
「……わかった。一緒に行こう!」
俺は一瞬、思案した後に承諾した。
王妃の最終的な目的が、セリカの抹殺であることは間違いない。だが、王国最強の【栄光なる騎士】である父上がいる前で、攻撃を仕掛けてくることは無いだろう。
「おおっ、ヴァイスよ! 健在であったか!? ギルベルト殿より子細を聞いたぞ。ジゼルの下僕より王女殿下をお守りするとは、実に見事! お前はワシの誇りだ!」
俺が姿を見せると、父上は顔をほころばせた。
「父上、ありがとうございます。まさか、わざわざご足労いただけるとは、思ってもみませんでした」
「いや、大魔族が絡んでいるとなれば、ワシが出向かぬ訳にはいかぬからな!」
そこにちょうどギルベルトもやってきて話に加わった。
「学園の教師たちじゃ埒が明かなかったからね。僕の名誉挽回のためにも、アルバン様に事情を説明し、救援を求めたんだ」
教師たちは悔しそうな顔をしているが、もはや後の祭りだ。彼らは、大魔族ジゼルの学園への侵入を許し、あまつさえ、それを告発した者の言葉に耳を貸さなかったという失態を演じることになった。
「でも、まさか自力で生還してしまったのかい? ヴァイスには驚かされてばっかりだな」
「いや、俺が今ここに立っていられるのは、手を貸してくれたギルベルトやフィアナのおかげだ。正直、かなりヤバイ状況だった。なによりこれで、学園に入り込んだ魔族の勢力は一掃できそうだな」
「そう言ってもらえると、ありがたいよ」
大貴族のギルベルトが、自分から魔族に操られていたと名乗り出て、大々的に動いてくれるとは思わなかった。
だが、問題なのは……
「あなたが、アルバン殿の息子ヴァイスですか? 先日は魔族からセリカを守り、今日も身体を張ってセリカを救出してくれたと聞き及びました。まさにあなたこそ、騎士の中の騎士と言えるでしょう!」
王妃が俺を派手に賞賛した。
教師たちから感嘆の息が漏れる。
「お褒めに預かり、恐悦至極に存じます」
お前こそ、この一連の事件の黒幕だろうと、俺は内心、舌打ちした。
しかし、そんな本音はおくびにも出さず、俺はその場に片膝をつく。
「国王陛下にもお許しいただきましたように、このヴァイスめは、王女殿下の従者となりました。王女殿下に仇なす者は、誰であろうと討ち滅ぼす所存です。以後お見知りおきください」
「これは頼もしい。あなたのような騎士がいれば、この私も枕を高くして眠れるというものです」
暗にお前を倒すと言ってやった訳だが、イザベラ王妃は、にこやかに受け流した。面の皮の厚さは、さすがだな。
「ですが、魔族の下僕が入り込んでいるような危険な場所に、大事なセリカを通わせる訳には参りません。これより、学園の安全が確保されるまで、セリカは私と共に後宮で暮らしていただきます」
馬車から降りてきた女騎士たちがセリカを取り囲んだ。うやうやしくはあるが、有無を言わせぬ勢いで、セリカの行動の自由を奪う。
「王妃様、いきなり何を!?」
セリカは抗議の声を上げるが、女騎士たちに挟まれて、強引に馬車に連れ込まれそうになる。
「ふふっ、こうなった以上、休学は当然のことではありませんか? 男子禁制の後宮なら殿方を支配する【傾国】の力は無意味。ジゼルの手は絶対に伸びません」
なるほど。こう来るとはな……
おそらく俺がジゼルの計略を壊したため、こうも性急な手を打ってきたのだろう。
セリカを後宮に閉じ込めて、俺と分断し、そこでセリカを抹殺するつもりか。
そんなことをすれば、セリカの母親を毒殺した時と同様に、王妃の関与が疑われるだろうが……
異端者狩りのブレイズ公爵家が動き出したのなら、いずれ王妃にも捜査の手が伸びることは必須。王妃としては、もはやなりふりかまっていられない、ということか。
王妃は自分の幸せを壊したセリカの母親と、セリカへの復讐心に取り憑かれた女だ。
「では、ヴァイス君も従者として後宮に連れて行くことをお許しください!」
「何を申すのです! 後宮は男子禁制ですよ。下賤な血が混じっているとはいえ、あなたは第一王位継承者、少しは常識と分別を身に着けなさい!」
セリカは懸命に抵抗するが、王妃はピシャリと跳ね除けた。
俺は女騎士たちの前に割って入って、セリカが拉致されるのを防ぐ。
「……ヴァイス殿、これは何のマネですか?」
「お待ちください王妃様。これは国王陛下のご意向でしょうか? セリカ王女は国王陛下のご命令で、このグロリアス騎士学園に通学しておられます」
王妃がこれまでとは打って変わった厳しい目を向けてくる。
「お答えください。王妃様」
「何をしておるのだ、ヴァイス!?」
「ヴァイス兄様、いくらなんでも!?」
俺の態度に、みんなが動転していた。
俺を追いかけてきたエレナや父上も、口をあんぐりと開けている。
だが、ここで退く訳にはいかない。
ゲームでは、選択ミスでバッドエンドに直行することがあった。
これはゲーマーとしての俺の直感だが、おそらく、ここでセリカを王妃に連れ去られたら、セリカ死亡のバッドエンドは不可避だ。
「ヴァイスよ。確かに国王陛下のお許しは得ておらぬが、王妃様のおっしゃることに何の問題も無いのではないか?」
父上が困惑顔で、俺をたしなめた。
「王妃様は知らせを受けて、セリカ王女の命の恩人であるお前を助けようと、共に駆けつけてくださったのだぞ。その王妃様に対して、無礼であろう」
「お父様のおっしゃる通りですよ、ヴァイス兄様!」
エレナも心配して叫ぶ。
二人の援護を受けて、王妃は気分を良くして微笑んだ。
なるほどな。
父上を抱き込むのが狙いで、俺を英雄と称し、さもセリカを心配しているかのように、この場に現れたんだな。
「陛下のご裁断は後で仰ぎます。今は一刻も早く、大事な王女であるセリカを安全な場所に移すのが先決です。ヴァイス殿は、まさかソレに反対されるですか?」
よくも、いけしゃあしゃあとそんなことが言えるな。
しかし、さすがに何の証拠もなく王妃を魔族と通じた裏切り者呼ばわりすれば、俺の首が飛ぶ。
考えろ。この場を切り抜ける最良の手段は……
「後宮などより、セリカ王女を匿うのにもっと適した安全な場所がございます」
「なんですって?」
「フィアナ会長の実家、異端狩りのブレイズ公爵家です。実はフィアナ会長からのご提案で、セリカ王女を守るため、俺たちは今夜から同じ部屋で寝ることになったのです。そうですよねフィアナ会長!」
俺は背後を振り返って、やって来たフィアナに呼びかけた。
「その通りですわ! このわたくしとヴァイスさんが、昼夜付きっきりで、セリカさんを護衛いたします。ブレイズ公爵の誇りと名にかけて、セリカさんをお守りしてみせますわ!」
腕組みをしたフィアナは、自信満々といったドヤ顔で宣言した。
フィアナは俺にサッと一瞥を送った。その瞳は、雄弁に『王妃様こそ黒幕なのですわね?』と語っていた。
ぶっ飛んだ言動の多いフィアナだが、魔族や異端者を狩る嗅覚には優れている。
俺が学園運営に関わる大貴族に裏切り者がいるというヒントを出していたおかげで、すぐに真相に勘付いてくれたようだ。
「ですから、どうか安心してお帰りください、王妃様」
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