39話。ヴァイスが救援に到着し、王女と妹を救う

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39話。ヴァイスが救援に到着し、王女と妹を救う

【セリカ視点】 「おのれぇ、者ども出会え!」  イザベラ王妃の命令と共に、武装した女たちが会場に乱入してきた。全員がマスクのようなモノで、顔を隠している。 「いかに【剣聖】とて、剣を持っていなければ、恐れるに足りず。さあ、2人とも血祭りに……!」  嘲りを浮かべた王妃の顔が、引き攣った。 「はぁッ!」  エレナがドレスの背中に隠していた【不可視の剣】(インビジブル・ソード)引き抜いて、剣閃を放ったのよ。  ドサリと、敵の先頭集団がまとめて床に倒れた。 「今のは峰打ちです。ですが、あくまでセリカ様のお命を狙うというなら、次は容赦なく斬ります」  エレナは剣を構えながら、威圧を放つ。女たちは明らかに怯んで、動きを止めた。 「ま、まさか、武器を持ち込んでいた!?」 「これは【不可視の剣】(インビジブル・ソード)。さすがに、こんな魔剣の存在は予見できなかったようですね」 「残念だったわね、イザベラ王妃。おとなしく捕まって、これまでしてきたことの報いを受けるのよ!」  私は指を王妃に突きつける。 「……くぅっ、わかったわ。残念だけど、降伏します。あなたたち、下がりなさい」 「えっ?」  思いっきり反撃されると思っていた私は、拍子抜けしてしまった。  王妃の命令を受けて、女たちは後退する。  物分かりが良過ぎる態度。魔族に与した異端者は、例外なく死刑だというのに……これは、なにかおかしいわ。  その時、私はかすかな刺激臭を感じた。 「エレナ、毒よ!」  私はスカートの下に隠していた【不可視の短剣】(インビジブル・ダガー)を取り出して、窓に投げつけた。  窓ガラスが派手に割れて、外気が流れ込んでくる。 「なに!?」  これには王妃も狼狽した。 「【蠱毒使い】(ベノムマスター)は、空気も毒で汚染できるのですよね。ヴァイス兄様が教えてくださいましたよ」  エレナが風魔法の気流操作で、割れた窓の外に毒ガスを押し流す。  毒をわずかばかり吸い込んでしまったエレナは小さく呻くも、私が解毒魔法ですぐさま癒やした。 「私たちを油断させて、毒ガスで殺す気だったのね。密閉された部屋と、その女たちのマスクは、そのため。だけど、お生憎様。私は【毒耐性】スキルを取ってあるんだから!」  たとえ、エレナが毒を受けても、私が持ち堪えれば解毒できる。ヴァイス君の対策は完璧だった。  それに晩餐会場の窓ガラスを割ることは、首尾良く王妃の罪を暴いた合図として決めていた。  これで近くに待機しているアルバン様のシルフィード騎士団と、ブレイズ公爵家の部隊が、後宮に押し入ってくる。合図だと気付かれないように工夫したので、王妃はこのことに気付いていない。  あとは、援軍の到着まで耐えれば、私たちの勝ちだわ。 「そう。少々、あなた達を甘く見ていたようね。でも、これならどうかしら」  王妃は懐から、鈴を取り出した。  アレは【召魔の呼び鈴】。魔物を空間を超えて喚び出すマジックアイテムよ。   鈴の音が鳴り響くと、王妃の目の前の空間が、グニャリと歪む。  咆哮と共に、そこからグリフォン──鷹の上半身と、獅子の下半身を持つ魔獣が出現した。 「これぞ大魔族ジゼルと契約して手に入れた我が力よ!」 「セリカ様、下がってください。私が相手をします!」 「あらあら、一匹ではなくてよ?」  王妃が続けて【召魔の呼び鈴】を鳴らすと、さらに2体のグリフォンが出現し、料理の並んだテーブルを派手に踏み潰した。 「彼らのレベルはいずれも30以上。形勢逆転ね」 「さ、30以上!?」  私とエレナのレベルは、ようやく22と24に到達したばかり。  こ、これは圧倒的に不利だわ。なんとか、時間を稼がないと。 「イザベラ王妃! あなたは王妃という立場にありながら、魔族に魂を売り渡して、恥ずかしくないの!?」 「ええっ、まったく」  王妃は事もなげに答えた。 「私の人生は、陛下の心を奪われ、我が子も失った時点で、無意味と化したのよ。なぜ私の子ではなく、泥棒猫の娘であるお前が、王座につくというの?」  王妃の顔が狂気に歪んだ。  おぞましいまでの怒りと憎悪が、その身から溢れてくる。 「そんことを許すくらいなら、こんな国など滅びた方がマシだわ」 「ぐっ……」  思わず気圧されそうになったけど、私はなんとか踏み止まった。  コイツは、絶対に許せない。お母様の仇というだけじゃないわ。 「私たちは王族なのよ。この国に生きる人々を守る義務があるわ! 自分の絶望に大勢の人々を巻き込んで不幸にしようなんて、間違っているとは思わないの!?」 「ふん、世迷い言を。愛する者のいない世界で、復讐だけが私の生き甲斐だった。お前の愛しいヴァイス殿も、すぐに後を追わせてあげるわ。お前が幸せになるなど決して許さない!」 「そんなことは、私がさせません!」  エレナが神速の踏み込みと同時に、グリフォンを叩き斬る。  その瞬間、私は攻撃力をアップさせる補助魔法をかけて、エレナを強化した。昨日、特訓したエレナとのコンビネーションよ。  ギィヤァアアア!  前足から鮮血を散らしたグリフォンが、鉤爪でエレナを切り刻もうとするも、彼女は巧みに躱してのけた。  エレナはコモンスキル【俊足】を手に入れ、さらにスピードに磨きがかかっていた。 「遅いです。ヴァイス兄様の動き比べたら、止まって見えます!」  エレナは新スキルを手に入れただけなく、上位クラス【剣を極めし者】(ソードマスター)へのクラスチェンジも果たしていた。  クラス特性によってクリティカルヒットの発生確率が上がり、攻撃力を強化する私の補助魔法との相乗効果によって、エレナの斬撃は恐ろしい威力となっている。  グリフォンは今度は顔面を斬られて悲鳴を上げた。 「すごいわ、エレナ!」  ヴァイス君の考えたエレナのビルドは、格上相手にも通用している。  それに、エレナもまったく諦めてなどいなかった。 「悪足掻きを、一斉にかかりなさい!」  王妃が居丈高に命じる。  くっ、いくらエレナでも、この狭い室内でグリフォン3体を相手にするのは無謀だわ。 「くぅうう!?」 「エレナ!?」  エレナが敵の攻撃を凌ぎきれず、グリフォンの前足に弾かれる。  私はすぐさま回復魔法で、エレナの傷を癒した。援護と回復こそが、私の本分よ。 「ありがとうございます、セリカ様!」 「まさか、一瞬で全快させた!?」  王妃が歯噛みする。 「私も強くなっているのよ。侮らないでちょうだい!」  でも、さすがに多勢に無勢。王妃の手下たちまで、魔法や弓を使って攻撃に加わり、エレナは集中砲火を受けた。  私は魔法障壁を展開して飛び道具を防ぐも、エレナの防御と回復が追いつかなくなってくる。  このままじゃ、敗北は時間の問題だわ。 「エレナ、中庭に逃げるわよ!」 「はい、セリカ様!」  中庭の井戸には、秘密の抜け道がある。  ヴァイス君がそこから、潜入を試みてくれているハズ。なんとか彼と合流できれば…… 「逃がすな! グリフォンども、何が何でも、セリカを始末なさい!」  私は割れた窓に向かって走った。エレナもその後に続く。  ここは5階だけど、エレナの風魔法があれば、飛び降りても死にはしないわ。  窓の外にダイブする。その瞬間──  追いかけてきたグリフォンの爪に、私は背中を引き裂かれた。 「セリカ様!?」 「いッ!? 大丈夫ぅッ! 『絶対に死なないド根性聖女ビルド』は無敵よ!」  『どんな攻撃を受けてもHP(生命力)1で踏みとどまれる』スキル【根性】により、私は即死を免れる。  さらに、前日のダンジョン探索で、私は王族専用の上位クラス【ロイヤルヒーラー】にクラスチェンジし、スキルツリーからコモンスキル【生還の祈り】も習得していた。  これはHPが5%以下になると、自動的に回復魔法【小回復(プチ・ヒール)】が、発動するというスキルよ。  これにも聖女のユニークスキルの恩恵である回復魔法強化が乗るから、私のHPは決して3割を切ることはない。  【聖女】にスキル【根性】と【生還の祈り】の組み合わせることで、『絶対に死なないド根性聖女ビルド』は完成するわ。  ヴァイス君によると、公式チートだとか。  私は空中で大きく体勢を崩しながらも、追いかけてきたエレナに抱きかかえられて、無事に着地する。 「さすがに肝を冷やしました。ご無事ですか!?」 「め、めちゃくちゃ、痛いけど生きてるわ!」  すぐさまグリフォンたちが頭上から追撃してくる。  大勢の人たちに目撃されるけど、もはや王妃はなりふり構っていなかった。 「はぁ!」  エレナが風魔法の刃で、グリフォンを迎撃する。だけど奴らには、たいしたダメージを与えられていない。  私は回復魔法を自分にかけながら懸命に走る。  私たちの思惑を知ってか知らずか、グリフォンが、抜け道となっている井戸の上に降り立った。 「ま、まずッ!?」 「私が道を切り開きます! はぁああああッ!」  エレナが猛然とグリフォンに突っ込む。  そんな彼女の背中を狙って、もう一体のグリフォンが急降下してきた。  はさみ撃ちにされる!?  「エレナ、後ろぉおおおッ!」  私は大絶叫を上げた。  万事休すと思われたその時。井戸の上のグリフォンが、下から何者かに殴られて盛大にぶっ飛んだ。 「ふたりとも無事か!? あとは俺に任せろ!」  井戸の中から飛び出してきたのは、私が恋い焦がれるヴァイス君だった。
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