41話。魔族イザベラに勝利し、スキルが超進化する

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41話。魔族イザベラに勝利し、スキルが超進化する

「セリカ!? おのれぇええッ!」  激高する王妃に、横合いから剣の形状をした猛火が浴びせられた。  フィアナのユニークスキル【炎帝の剣(レーヴァンテイン)】による攻撃だ。 「ぎゃぁああああ!?」 「ようやく正体を現しましたわね、異端者!」  王妃の騎獣は今の一撃で、焼き尽くされた。  王妃は、直撃こそ避けたものの不様に地面を転がる。 「あなたが、魔族に与する王国の裏切り者であること、明白になりましたわ!」  中庭に飛び込んで来たフィアナが、王妃に炎の剣の切っ先を突き付けた。 「い、異端者狩りのブレイズ公爵家!」  王妃は口惜しそうに唇を噛む。  フィアナに魔獣を操っているところを目撃されたのなら、もはや言い逃れはできない。 「イザベラ王妃、【召魔の呼び鈴】を渡して、大人しく投降してちょうだい! あなたが今まで冒した罪について、お父様の前で洗いざらい話してもらうわよ!」 「セリカさんのおっしゃる通りです。嫌だとおっしゃるなら、どんな手段をもってしても、口を割らせますわ。ブレイズの拷問は、苛烈でしてよ?」  フィアナが足を踏み鳴らすと、威圧するかのように、彼女の周囲から炎が噴き上がった。 「クハハハハッ! こ、これで勝ったつもりですか、セリカ!? 勝ち誇るな、薄汚い売女の娘ごときが!」  王妃は突如、何かに取り憑かれたように大笑いしだした。 「お前が幸せになるなど、絶対に許せぬ! 私は殺すと決めた相手は、絶対に殺してきたのだ! ジゼル様、私の魂を捧げます! 私をあなた様の眷属に!」 「認めるわ『汝の欲するところを行え。それが汝の法である』」  闇の中から、鈴を振るような少女の可憐な声が響いた。  ゲームと同じ声。紛れもなく大魔族ジゼルの声だ。 「時間が無いわ。あなたは、なんとしても王女を殺しなさい」 「無論、我が命に代えましても!」  まるで地獄の扉が開いたようだった。  王妃から、ドス黒い毒ガスが大量に吹き出した。それに触れた花壇の草花が一斉に枯れる。 「ヤバいぞ、みんな下がれ! 王妃はもう人間じゃない!」  ゾッとするような威圧感に、俺は警告を発した。  王妃の目が熾き火のように真っ赤に輝き出す。 「まさか魔族化!?」  フィアナが息を呑んだ。  ゲームシナリオと同じだ。追い詰められた王妃は、最終手段として魔族と化した。こうなる前に身柄を押さえたかったが、ジゼルも後宮にいたとはな…… 「あなた、人間を辞めたの!?」 「私を見下すなセリカ! お前のその顔は、アアアッ、あの売女と瓜二つ! 憎い、憎い、憎いぞぉおおおおおッ!」  王妃が地面を蹴って、人間離れした勢いでセリカに襲い掛かる。  魔族と化したことで、王妃の全ステータスが爆発的に強化されただけでなく、ユニークスキル【蠱毒使い】(ベノムマスター)がパワーアップしていた。  王妃に触れられたら、毒の状態異常だけでなく、即死級のダメージを受けるだろう。  セリカの『絶対に死なないド根性聖女ビルド』の弱点は、HPが徐々に低下していくスリップダメージを受けると、崩されてしまうことだ。  【毒耐性】スキルを備えていようと、おそらく凌ぎきれない。 「エレナ、風魔法で援護してくれ!」 「はい、兄様!」  エレナが放ってくれた突風と共に、俺は王妃に突っ込んだ。  この風で毒ガスを吹き散らし、【地竜王の小盾】で、俺は王妃をぶん殴る。 「甘いわ、小僧!」  しかし、王妃は【超重量】で強化された俺の渾身の一撃を両手で受け止めた。  ズシンと、王妃の両足が地面にめり込んで、大地が衝撃にひび割れる。 「くっ!?」  魔族は、その身を焦がす憎悪が強ければ強いほど、強力な存在と化す。  魔族化した王妃の推定レベルは45。本来ならゲーム後半で戦う強敵だ。今のヤツの戦闘能力は、計り知れない。 「丁度いい、セリカ。お前の目の前で、お前の愛しいこの男を殺してやる!」  王妃は俺にターゲットを切り替えて、伸びた鉤爪を縦横無尽に振るった。  速度に極振りしているおかげで、ギリギリすべて躱せているが、一発でも喰らったら、お終いの攻撃だ。  王妃の強烈な憎悪が、ヤツに想像以上の力をもたらしていた。 「【炎帝の剣(レーヴァンテイン)】!」  フィアナが炎の剣を生み出して、王妃に叩きつけた。  王妃は難なく回避して、フィアナに向き合う。 「邪魔をするなフィアナ・ブレイズ!」 「調子に乗りすぎです。誰に楯突いていると、お思いですの!?」 「次は、この私が相手です!」 「小娘どもがッ!」  さらにエレナも風をまといながら突進してきて、王妃の意識が俺から逸れた。魔法詠唱ができるチャンスだ。 「セリカ、アレをやるぞ!」 「わかったわ、ヴァイス君! 【速度強化(ヘイスト)】!」  セリカが俺に向かって、【速度】を引き上げる補助魔法をかけてくれた。 「はぁああああッ! 【空気抵抗ゼロ】(ゼロ・レジスタント)!」  同時に、俺は風魔法の奥義、【空気抵抗ゼロ】(ゼロ・レジスタント)を自分自身に使用した。  これは対象にかかる空気抵抗を無くす効果のある魔法だ。  物体の速度が速ければ速いほど、空気抵抗は比例して強くなる。これによってブレーキがかかり、無限に加速することは不可能になる。  だが、もし気流操作によって、空気抵抗をゼロにできたら、どうなるか?  奥義は未完成で、完全に空気抵抗をゼロにはできなかったが、それでも俺は今までとは比べ物にならない程、爆発的に加速した。音さえも置き去りにする領域へ。 「貴様ッ!?」  俺は王妃の肩を【地竜王の小盾】で殴りつけた。王妃の肩が砕ける音が響く。 「さすがですわ、ヴァイスさん!」  俺の作ったチャンスをフィアナは見逃さなかった。  フィアナは炎の剣を振りかざす。 「【火勢強化(ブレイズ・ブースト)】!」  俺は風魔法でフィアナの炎の剣を強化した。  より火勢を増した【炎帝の剣(レーヴァンテイン)】で、フィアナは王妃を横一文字に薙ぐ。 「おのれぇええええッ!?」  これこそ、俺とフィアナが婚約していた理由の一つだ。風魔法は炎を強化することができるんだ。  俺とフィアナはお互いを高めることができる良縁だなどと言われていた。 「はぁああああッ!」  さらにエレナの凄烈な一撃が、王妃を袈裟斬りにした。 「げはっ!? ジゼル様! どうかお出ましになって、こ、こやつらを!」  よろめくイザベラ王妃は大声で、大魔族ジゼルに助けを求めた。  俺たちは思わず身構えたが、ジゼルが姿を見せることはなく、何の反応も無かった。 「な、なぜ!? この私を見捨てるというのですか!?」  王妃は目に見えてうろたえた。 「王妃、お前は、ジゼルが逃げるための捨て駒にされたんだよ。元々、ここはジゼルにとって不利な場所だ。男を魅了する【傾国】の力は、後宮じゃ意味を成さない。あの狡猾な魔女が、ここで決戦を挑むハズが無いだろ?」 「捨て駒だと!? この私が!?」  今まで、多くの人間を捨て駒として扱ってきた王妃にとって、自分が捨て駒にされるのは衝撃だったようだ。 「俺たちの勝ちだ! 【空気抵抗ゼロ】(ゼロ・レジスタント)!」  俺は最大速度で、トドメの一撃を王妃──魔族イザベラに叩き込んだ。超絶破壊力が、ヤツの身を砕く。 「ヴァイス、お、お前さえいなければぁあああッ!」  魔性の王妃は、断末魔の叫びと共に光の粒子となって消滅した。 「や、やった! 勝ったわヴァイス君!」 「ヴァイス兄様! やりました!」  セリカとエレナが大喝采を上げて、抱きついてきた。 「これでジゼルの計略も潰せたのね! お母様もきっと浮かばれるわ!」 「ヴァイス兄様は、まさに王国の英雄です! 私は兄様を誇りに思います!」 「最後の一撃は、誠にお見事でしたわ。ふふっ、やっぱりヴァイスさんこそ、わたくしのベストパートナーですわね!」  フィアナは腕組みして、得意満面だった。  俺はセリカ、エレナと抱き合って喜びを噛み締め合う。一歩間違えれば、ふたりを失う危険があった。  まさに、綱渡りの勝利だった。 「ヴァイスよ、無事かぁああああッ!」  そこに父上がシルフィード騎士団を率いて、大声を上げながら駆けつけてきた。 『魔族イザベラを倒しました!  レベルアップ!  おめでとうございます!  レベルが35に上がりました!  ユニークスキル【超重量】でレベル30以上の敵を5体倒しました。  おめでとうございます。【超重量】がレベル5に進化しました! 【ワームホール】が使用可能になりました!  視界の範囲内の別の空間に、触れた物体をワープさせる能力です。  代償として、HP《生命力》を50%消耗します。  次のレベルへの進化条件は【超重量】を使用して、レベル60以上の敵を1体倒すことです』 ================== ヴァイス・シルフィード レベル35(UP!) クラス:マスターシーフ 筋力:4 速度:71→116(UP!) 防御:2 魔力:17→20(UP!) 幸運:4 ユニークスキル 【超重量】レベル5(UP!) コモンスキル 【気配遮断】(NEW!) 【光学迷彩】(NEW!) 【HPスナッチ】 【罠破り】 【ステータス隠蔽】 ==================
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