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44話。嫉妬に狂った王国最強の騎士から挑戦を受ける
「そんなことが……あ、あり得ん! 噂では、アルバンの息子は、学園最下位のクズだと……! そ、それが、なぜ!?」
リーベルト公爵はとても信じられないといった様子で、身体を戦慄かせた。
「ふっ、一体いつの時代の話をしておるのだエドワードよ。ヴァイスはすでに【栄光なる席次】ナンバー5。しかも、ブレイズ公爵家からも、再婚約の申し出を受けておるのだぞ?」
「なにぃ!? か、かのブレイズ公爵家から!? 王女殿下とフィアナ嬢、貴族男子の誰もが思い焦がれる二人から、同時に求愛されているというのか!? き、貴様、本当にあのアルバンの出来損ないの息子かぁああッ!?」
現実を受け入れることを拒否するかのように、リーベルト公爵は絶叫した。
まあ、外見からして何もかも変わり過ぎだからな。
「ええっ、その通り。我がブレイズ公爵家は、ヴァイスさんとの再婚約を希望しておりますわ。たえと、恋のライバルが王女殿下であろうとも、国王陛下がどんなお沙汰をなさろうとも、関係ありません」
傲然と腕組みをしたフィアナが、大きく声を張り上げた。
「ヴァイスさんの婚約者は、このわたくしですわ。誰がヴァイスさんの花嫁に相応しいか、いずれ【栄光なる決闘】で、白黒つけて差し上げます!」
「おっ、うおおおおっ、なんとぉ!?」
貴族、重臣たちがどよめいた。
「はぁっ!? 私とヴァイス君は、愛し合っているのよ! フィアナの入り込む隙間なんて、ないわ!」
「ふん。『強き者こそ美しい。勝者はすべてを手に入れる』。それが陛下の御心でありましょう? なら、わたくしはヴァイスさんに勝利して、わたくしの婚約者になるように要求いたしますわ! ついでに、セリカさんも倒して、ヴァイスさんとの結婚は辞退するように要求します!」
フィアナが自信満々で宣言した。
【栄光なる決闘】の勝者は、法に触れる内容でない限り、敗者にどんな要求でもできる。
これ以上ないほど明確な、俺とセリカへの宣戦布告だった。
「婚約破棄した癖に、身勝手過ぎるわよ!」
「おもしろい!」
俺は思わず膝を叩いた。
本気で、こちらを倒そうと手を尽くしてくる強敵。そんな相手との手に汗握るバトルこそ、ゲームの醍醐味みだ。
「クハハハッ! さすがはヴァイス! おぬしにも戦闘を楽しむ獅子の魂が宿っているのだな! 良いぞ。フィアナの願いも、ヴァイスとの結婚か? ならば力で奪い取れ!」
ヴィルヘルム陛下も、おもしろそうに唇の端を吊り上げた。
「ちょ、ちょっとお父様!?」
「不服かセリカよ? ならば己を鍛えて、フィアナに勝利し己の意志を貫き通せ!」
「も、もちろん望むところですけど……!」
セリカが助けを求めるように俺を見た。
「さすがに、いきなりセリカがフィアナに勝つのは無理だ。少なくとも俺と修行して、最低3ヶ月はかかるかな。セリカとの対戦はそれまで、待ってもらえるか? フィアナとの対決は、すぐにでも受けてやるからさ」
「ふふっ、さすがはヴァイスさん、そうこなくては! ではレオナルドさんとの対決が終わったらナンバー1の座を賭けて、わたくしと【栄光なる決闘】ですわよ!」
フィアナは強敵だが、風魔法の奥義【空気抵抗ゼロ】を完成させれば、勝ち筋を見出だせる。
『風は火を踊らせる』。火は風なくしては存在できないため、風属性は火属性に対して、優位に働くのだ。
「お、おのれ……この私を蚊帳の外に置いて、勝手に盛り上がりおって。まさか、レオナルドにすでに勝った気でいるのか!?」
リーベルト公爵が、屈辱に顔を歪めた。
「レオナルドは私との過酷な修行によって、レベル25に到達したのだぞ! 貴様ごときに万が一にも勝ち目はない!」
へぇ。レオナルドは予想以上にレベルを上げて来たんだな。
「えっ? 25? ヴァイス君はレベル35になっているんだけど……」
「な、なんですとぉ!?」
セリカのツッコミにリーベルト公爵は目を丸くした。
「レ、レベル35というと、フィアナ殿と同格!」
「い、いつの間に、それほど強く!」
それは他の貴族たちも同じで、度肝を抜かれた様子だった。
「い、いや! ユニークスキル、魔法能力の相性的に、レオナルドが確実に上だぁ! さらにさらにレオナルドを厳しく追い込んでレベルを上げてやる! 必ず吠え面をかかせてやるぞ、アルバンの息子!」
リーベルト公爵の暴言に、父上は眉根を寄せた。
「ほう? 言うたなエドワード。では、当日は完成した風魔法の奥義を見せてやろう。風を極めれば、雷など恐れるに足りぬと知れ! ヴァイスよ、圧勝して格の違いを見せ付けてやるのだ!」
「くっ! おもしろいアルバン! いかに速さを極めようとも、超えられない壁がある事を思い知らせてやる!」
国王陛下の御前だというのに、王国最強の二人は、子供のように敵意を剥き出しにしていがみ合った。
二人の対立は根が深いようで、これは何を言っても無駄そうだな。はぁ。
「ハハハハハッ! 愉快、愉快! 競い、高め合うことこそ、余の理想とするところ! では当日は、余もヴァイスとレオナルドの【栄光なる決闘】を観戦しに行ってやろう」
「な、なんと! 陛下、自ら!?」
俺もこれにはびっくりだ。
「おそらく、この戦いの勝者がセリカの結婚相手となるだろうからな。レオナルドがどこまでヴァイスに喰らいつくか。いやはや、まさに楽しみだ! 久しぶりの血沸き肉踊る決闘であるぞ!」
その一言で、国王陛下が俺の勝利を確信していることが、この場の全員に知れ渡った。
「へ、陛下!?」
それはリーベルト公爵にとって、極めて屈辱的なことだったようだ。
「くっ、お、おのれぇええッ! うまく陛下と王女殿下に取り入ったようだが、調子に乗っていられるのも、今のうちだぞアルバンの息子! この私とレオナルドが、必ず吠え面をかかせてやる!」
リーベルト公爵が、俺を怒りと嫉妬にまみれた目で睨んだ。
やれやれ、父上が煽り過ぎてしまったせいで、多少、厄介なことになってしまったな。
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