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45話。バカにして絡んできた学園ナンバー4を返り討ちにする
次の日、学園に登校すると、俺は大勢の女子生徒に取り囲まれた。
「きゃあああああッ! 救国の英雄ヴァイス様よ!」
「魔族の手から、王女殿下を何度も救ったなんて素敵だわ!」
「ワザと変態を演じて、敵の目を欺いていたんですって!?」
「カッコいい! 握手してくださぃいいいッ!」
「きゃ!? ヴァイス様にタッチしちゃった!」
「うぉ、な、なんだコレは……!?」
あまりに意外なことに、面食らってしまう。
ここ数日、王妃事件の事情聴取などで登校できていなかったのだが……
えっ、なんか一夜にしてヒーロー扱いになってしまっているんですけど。
「ヴァイス兄様、デレデレし過ぎです!」
「ちょっと、みんな! ヴァイス君は、私の恋人なのよ! 勝手に触らないで頂戴!」
エレナが憮然とし、セリカが女子生徒たちを追い払おうとする。
だけど、女子たちは引き下がらなかった。
「セリカ様、横暴ですよ!」
「聞けば、ヴァイス様との婚約が正式に決まった訳ではないそうではありませんか!? フィアナ様がおっしゃっていました! なら私たちにだって、チャンスはあります!」
「な、なんのチャンスだ……!?」
女子たちを振り払う訳にもいかず、俺は困り果ててしまう。こんな経験は妄想でしかしたことが無かった。
「むっ! ヴァイス兄様、セリカ様を愛していらっしゃるなら、ちゃんと断ってください!」
「そ、そうだな! お、おい、キミたち、登校できないから、道を開けてくれないか?」
「握手してくたら、道を開けちゃいます!」
「私も私も! ハグしてくれなら、道を開けますよ!」
「はぁ!?」
まるで聞く耳を持ってくれないんだが。
女子たちは目をハートにして、グイグイ迫ってくる。
「ちょっとヴァイス君、私以外の女の子とそんなことしたら、許さないんだからね!」
「握手もダメ!? じゃあ、どうすれば良いんだ!?」
一瞬、俺と握手をしたいという娘の希望を叶えて追い返そうと思ったのだが、眦を決したセリカが待ったをかけてきた。
「兄様。こうしてください。『大変、心苦しいのですが、俺にはセリカ様という心に決めた方がおりますので。今はセリカ様のエスコートをさせていただいております』……と言って、セリカ様のお手を取って、一歩下がるんです」
「うはっ! ソレ、されてみたい!」
エレナが断り方を教えてくれると、エレナは飛び跳ねて喜んだ。
「な、なるほど」
実に貴族的で優雅な断り文句だ。
さっそく、やってみると……
「きゃああああ、カッコイイ! 物語の王子様みたい!」
と、逆に大絶賛されて、女の子たちの数が増えて、包囲がさらに厚くなった。
「す、すみませんヴァイス兄様。兄様が、素敵過ぎて、逆効果だったみたいです」
エレナはシュンとしてしまった。なんだ、そりゃ。
仕方がない。もうセリカを抱きかかえて逃げてしまおうか。
学園内には、まだ大魔族ジゼルが潜んでいる可能性がある。
後宮での事件の後。ジゼルの下僕として拘束された生徒会役員が、ジゼルの正体は、とある1年生の女子生徒だと吐いた。
しかし、その寸前に、その女子生徒は姿を消してしまい、真相はわからず終いだった。
ブレイズ公爵家は、学園に潜伏していたジゼルの下僕をすべて見つけ出し、同じ情報を引き出した。
だが、フィアナによると、これは偽装の可能性があり油断は禁物とのことだ。
下僕が捕まった場合、別人の名前を吐かせ、捜査を撹乱させる計画かも知れないらしい。
ジゼルに手を貸していた王妃が居なくなった以上、もう大きなことはできないだろうが……
セリカがジゼルに狙われている以上、多数の女子生徒から囲まれている今の状況は危険だった。
「セリカ、行くぞ」
「って、ヴァイス君てば、大胆!?」
セリカをお姫様抱っこすると、彼女はうれしそうに頬を染めた。
「ハッ! 救国の英雄だとぉ、見ねぇツラだな? 女どもとイチャつきやがって、ムカツク野郎だぜ!」
その時、身長2メートル近くはある巨漢の男子生徒が俺に声をかけてきた。
ぬっと、大きな影が俺たちを覆う。
「あっ、お前は……デルムッドか?」
「はっ! この俺のことは、さすがに噂で知っているようだな。転校生か?」
ソイツは【栄光なる席次】ナンバー4の2年生デルムッドだった。
確か、レオナルドを倒すことが目標で、武者修行に出かけており、学園を留守にしていたんだよな。
……それで、最近の事情に疎いのか。
「よりにもよって王女様と抱き合いやがって! この学園の頂点に立った男が、王女様と結婚できるって、知らねぇのか!? それをツラの良さを使って、横からかっさらうつもりか!? おっ、おぉおおッ!?」
デルムッドが、思い切りガンを飛ばしてきた。
「いや、俺は……」
「【アナライズ】! って、たったのレベル2だと? ブヒャヒャヒャ、クソ雑魚じゃねぇか!」
【アナライズ】の魔法で俺のステータスを確認したデルムッドが嘲笑った。
デルムッドは【力こそすべて】という筋力を超強化するユニークスキルを持っている。さらにそれを補助する魔法も使えた。
それが、他人のステータスを閲覧できる【アナライズ】と【筋力強化】だ。
単なる脳筋では一流の戦士にはなれない。
【アナライズ】で敵の情報を調べて、敵の弱点を突いた戦い方をするのが、デルムッドの戦闘スタイルなのだが……
俺はスキル【ステータス隠蔽】で、ステータスを偽装しているから、無意味なんだよな。
「保有スキルも無し! ユニークスキルは、【物理ダメージ小強化】って、俺の完全な下位互換じゃねぇか!?」
デルムッドは完全に騙されていた。
「俺はお前みたいな、顔が良いだけで女からチヤホヤされるオカマ野郎が一番嫌いなんだ! そのイケメン面をぐちゃぐちゃにしてやる!」
視認すらできない勢いで、デルムッドの拳が飛んできた。
肉体を徹底的に鍛えたデルムッドは、スピードもかなりの領域に達していた。
俺に抱きかかえられたセリカが、短い悲鳴を上げる。俺は両手が塞がっているから、圧倒的に不利だ。
「それは、俺もまったく同感だな」
「げはッ!?」
俺はデルムッドの腹に蹴りを入れた。
【超重量】によって、インパクトの瞬間、体重を1000倍にアップしたので、その威力は絶大だ。
デルムッドは派手に吹っ飛ばされて、校舎の壁にめり込んで沈黙した。
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