49話。【超重量】レベル5の能力で大魔族の罠を破る

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49話。【超重量】レベル5の能力で大魔族の罠を破る

「そんな、まさかリーベルト公爵の防御を突破して、膝をつかせた!?」  ジゼルが驚愕する。 「バカ……ッ! 雷の剣が、風魔法ごときに!」  リーベルト公爵は出血を防ぐために、胸を手で押さえた。その赤い双眸は、驚愕に満ちている。  強者ゆえの驕りと、これまでの成功体験が、ヤツの判断を誤らせた。 「おっ、おぉおおおおッ!」 「こ、これがヴァイスの力!?」  絶望に打ちひしがれていた生徒と教師たちが、目を見張った。  俺はここぞとばかりに叫んだ。 「怖れるな! 【傾国】のスキルで無理矢理、魔族化の契約を結ばされた代償だ。リーベルト公爵の力は、それほど増大してないぞ!」  魔族は契約を交わす際の人間への憎しみが深ければ深いほど、強力な個体となる。王妃が良い例だ。  しかし、【傾国】の魅了によって意思を捻じ曲げられて契約を結ばされたのなら、弱い魔族にしか成り得なかった。 「今がチャンスだ! 俺たちの力を結集すれば、絶対に勝てる! リーベルト公爵に集中攻撃を仕掛けるんだ!」  1となった俺のHP(生命力)は、コモンスキル【HPスナッチ】の効果で、全快している。ここで畳み掛ければ……  だが【未来視】で俺の考えを読んだレオナルドが、リーベルト公爵への射線上に割り込んできた。  クソッ、これでは石礫による遠距離攻撃ができない。 「ヴァイス、何度言えば、わかるんだ。この僕を見るんだ。僕と戦えぇええ!」  必中の雷撃を、レオナルドは放ってくる。 「レオナルド、こんなのが、お前の望んだ決闘か!?」 「僕はお前と決着を付けるために、ここに来たんだ! 我が姫もソレを望んでいる!」  もはや決闘の体裁を成していないと思うが、レオナルドは俺との決着を望んでいるようだった。  だが、レオナルドに下手な攻撃をしかければ、魔法爆弾が作動して、ヤツを殺してしまう。 「兄様! 私が代わりに畳み掛けます!」  エレナがリーベルト公爵に突っ込んで行って、その巨体を剣で斬り刻んだ。  魔族は【生命力自動回復】(リジェネレイト)の特性を持っており、放っておけば受けた傷が自動回復してしまう。今、まさに攻勢を仕掛けねばならなかった。 「エレナ、頼んだぞ!」 「はい! 兄様の作って下さったチャンスを、私が繋ぎます!」 「男子は、エレナさんを先頭にリーベルト公爵を攻撃! 女子はわたくしを先頭にジゼルを攻撃ですわ!」  フィアナが腹を押さえながら立ち上がって、生徒たちに命じた。 「は、はい!」 「我々はフィアナ様に従います!」  右往左往していた生徒たちが、士気を取り戻した。  さすがはフィアナだ。 「おっと、僕もフィアナ会長の援護に回らせていただいてもよろしいですか? 僕は【気配察知】のコモンスキルを持っているので、ジゼルを見なくても攻撃が可能です」  ギルベルトがフィアナの隣に降り立ちながら告げた。  同時に、ジゼルの背中から血が噴き出す。 「なっ!? こ、これはまさか!?」  ジゼルは寸前に攻撃を回避しようと高速で動いたにも関わらず、攻撃を受けたことに驚愕している様子だった。 「ふふっ、そのまさかだよ、お姫様。僕の【不可視トラップ創造】(インビジブル・トラップメーカー)で生み出した不可視の矢さ」    どうやらギルベルトのユニークスキルによって生み出された設置型クロスボウからの射撃が、ジゼルに決まったようだ。 「いくらレオナルドの【未来視】で、未来のビジョンを共有できたとしても、攻撃が見えないんじゃ意味が無いよね?」  ギルベルトが鼻で笑う。 「くっ、あなた……!」 「君の【傾国】は確かに国を滅ぼしかねない凶悪なスキルだけど、君自身は魔法が得意なだけで、そこまで強力な魔族じゃない。勝てると思って姿を見せたのは失敗だったね」  そうだ。レオナルドはギルベルトを高く評価していたが、それは【未来視】の天敵が【不可視トラップ創造】《インビジブル・トラップメーカー》だったからだ。  見えない攻撃は、未来が見えても完全に回避することは不可能だ。  ギルベルトは、どうやらジゼルに包囲射撃を加えているらしく、慌てて魔法障壁を展開したジゼルがどこに逃げても見えない矢が突き刺さった。  ギルベルトなら【未来視】を得たジゼルに攻撃をヒットさせられるぞ。 「お手柄ですわ、レオナルドさん!」  フィアナが【炎帝の剣】(レーヴァンテイン)を振りかざして、ジゼルに突撃する。 「なに、この僕を洗脳してくれた、ほんのお礼です」  ギルベルトは優雅に一礼した。 「くぅううッ! 下僕どもギルベルトを倒すのよ!」 「はっ!」  ジゼルの号令と共に、ヤツの下僕と化した男子生徒たちがギルベルトに襲いかかって行く。  さらに、いくつもの魔法陣が闘技場内に出現し、そこから魔獣ブラックウルフが、大量に召喚された。魔獣どもが狙うのは、ギルベルトただ一人だ。  こうなっては、ギルベルトも身を守るのに精一杯で、フィアナの援護に集中できない。 「レオナルドをさっさと倒してしまってくれヴァイス! いくらフィアナ会長でも、【未来視】のスキルを持ったジゼルは厄介だ」  ギルベルトが、【不可視の短剣】(インビジブル・ダガー)を魔獣の頭に突き立てながら、冷静に事実を指摘する。  まさにその通りで、フィアナの攻撃はことごとくジゼルに躱されていた。 「……要するにレオナルドを殺せってか」 「みんなを守るために必要な犠牲だよ。君なら、理解できるだろう?」  暗殺貴族らしい割り切りだが、俺はそこまで冷酷にはなれない。 「ぐぅ!?」  レオナルドは俺に向けて、雷撃の魔法を放ち続ける。  回避しようとしても【未来視】で、先回りされて攻撃されてしまうため、すべて【地竜王の小盾】で防ぐしかない。  だが、雷魔法の性質上、電撃の数%が盾を伝って俺にダメージを与えていた。防ぐばかりでは、ジリ貧だ。 「一か八かだ!」  俺は【空気抵抗ゼロ】(ゼロ・レジスタト)の詠唱をした。  レオナルドは身構えるが、ジゼルは嘲笑った。 「ふん、こけおどしよ。あなたに仲間は殺せない。そういう人間であることは、調査済み……!」  ジゼルの顔が引き攣った。どうやら、未来を見てしまったようだな。  俺は自分にかかる空気抵抗をゼロにして、レオナルドに向かって超加速した。音速の壁をたやすく突破する。 「そうだ、来いヴァイス!」    レオナルドは歓喜し、雷を纏わせた拳をカウンターとして放った。  その瞬間、俺はわかっていても回避不能の【超重力フィールド】を【地竜王の小盾】に発生させる。  一瞬の交錯。  レオナルドの攻撃は、俺の頬をかすめ──  俺はレオナルドの胸に埋め込まれた魔法爆弾に触れた。 「【ワームホール】!」  同時に、【超重量】レベル5の能力を発動させる。  これは視界の範囲内の別の空間に、触れた物体をワープさせる能力だ。代償として、HPを50%消耗する。 「エレナ、伏せろ!」  【ワームホール】によって、俺はレオナルドの魔法爆弾をリーベルト公爵の背後に転送した。  そして、大爆発が起こった。
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