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今度は殺されるかもしれない。私はうなずいて、なんとか微笑んだ。それでも、その笑顔に彼が少し安堵を覚えたのがわかる。でも、同時に彼の胸の奥に強い痛みが走ったことも感じ取れる。
本当にこれで最後になるのだろうか。私の目には、決意のようなものが宿っているのを彼が感じただろうか。
「それじゃあ……始めましょうか」
彼は優しく言った。
私は深呼吸をして、静かにうなずいた。そして、私の手をしっかりと握り直し、もう一度あの瞬間を迎える準備をした。
彼は私の手を引いて、ゆっくりと歩き出す。私たちは黙ったままで、ただ足音だけが静かに響いていた。何度も繰り返して、どこか懐かしい、それでいて切ない感情が胸の奥で渦巻いている。
私は、コンテスト一週間前の
ウィーナリー市のホテルの一室で目を覚ました。頭の中に、今までのすべての記憶が鮮明に甦る。夢ではない。
これで何度目だろうか。過去に戻るのはもう慣れてしまったが、それでも違和感は消えない。私は綺麗に並んだ自分の指を見て動かしてみた。
過去の世界に戻るのは、意識と記憶だけだ。あの醜く指が曲がった体は未来に置いてきた。
「……戻ったのね」
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