山の会

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 しかし俺の予想は外れた。仙田前社長は、なんと仙田市長になったのだ。  我が社は、社名を変え社員を入れ替えて以来、業績が何倍にも膨れ上がっていた。いつの間にやら同じレベルの中小企業の中でトップに躍り出ていたのだ。その秘訣はと問われた元副社長で現社長の桧山社長は、「山の会」のことを懇切丁寧に説明した。それに感銘を受けた他社の経営者たちは、みな揃って真似をし始めたのだ。  それがいつの間にか広がり、山の字が入る者が大手を振って歩くようになった。山の字のない者は差別され、引け目を感じ、いつの間にか引っ越していった。  そんなだから仙田市長の頭がおかしい公約も指示されたのだ。というか、呆れたやつらは俺と同じように「どうせ勝つわけがない」と静観してしまい、山の字の連中の熱心な活動に気が付かなかったのだ。  そしてとうとう山の会は政党にまで登り詰めた。登るのは山にしておけよ、というツッコミすら俺は入れられなかった。そんな気力はもう残っていなかったからだ。  山の字の入った仲間たちの結束は宗教じみたレベルにまでなっていたようで、山の会党──そこは『山の党』かなんかでいいと思うが、未だに山の会を引きずっている──は、新党の身でありながら、他の野党を引っ張るほどの力をつけた。  あれよあれよという間に、山の会党は政権を奪取し、与党にまでなってしまう。  まさか山の会党の公約は……そう。 「全ての国民に山の字を入れる」だ。  そして日本は山の字の入る人間だけになった。
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