山の会

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 山の会と言っても山の話はしないし、名前の由来を語り合うこともない。ただ会社の同僚として飲む、いつもの飲み会となんら変わりはない。  それでも普段は集まらないメンバーだからか新鮮で、部の違う役職付きの上司やら部下やらが初めて酒を酌み交わして、なかなか楽しい時間を過ごした。  こういう珍奇な会も悪くないと、飲みながら俺はそう思った。  翌週の月曜日、朝から会議があった。寝坊したせいで朝食を抜いていたか腹が鳴り大変だった。時間は早かったが終わるとすぐに社食へ駆け込んだ。会議の議事録は午後にまとめればいい。とりあえず腹ごなしだ。  A定食を頼みトレーに乗せてもらって、俺はテーブルについた。思ったよりも早めの昼食をとるやつはいるようで、空いてはいるが知った顔が何人も食事についている。声をかけられたが俺は固辞して、ゆっくり食べようと誰もいない窓際の席を選んだ。  スマホを見ながらパクついていると、いきなり前の席に誰かが座った。空いていてわざわざこの席を選んだのだから俺に用事がある誰かだろうと、スマホから視線をそちらへ移した。  知らない顔だった。 「山本さん、いになり申し訳ありません。私は中村といいます。一つ後輩で営業部にいます」  山の会への入会かと思ったが、中村じゃ違うな。それともまた崇だの両太郎だの、名前に山の字でも入っているのというのか? 「中村さん、はじめまして。……いかがしましたか?」  一つ先輩だが、体育会系でもない俺は丁寧な言葉を選んで先を促した。
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