山の会

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 その週も5人の人間が山の会に入会した。早速会を開いて欲しいとの頼みで、週末には第三回山の会が開催された。  それから毎週恒例となり、第四回第五回と週末になる度に山の会は開催された。  何十人もの団体が常連となったのだ。居酒屋もお得意さん扱いをしてくれるようになり、単なる職場の集まりではなく山の会で……と説明をしたら爆笑の末、『山の会御一行様』との垂れ幕を用意してくれた。そんな垂れ幕などこの居酒屋で一度も見たことがなかったので、笑わせ返しのジョークなのだと俺は笑ったが、会のメンバーはそれでも嬉しかったようで、その垂れ幕の前で集合写真を撮ったり、それに引きづられたのか会のグッズを作ろうと案を出し始めたり、LINEグループを作ったりと、ますます会らしくなってきた。  ただ山の字が入っているだけなのに、山について会話をするわけでもないのに、と俺は不思議だったが、敢えて水を差すようなことは言わないでいた。もしかしたら皆も同じように不思議に思っていたのかもしれない。しかし、何でもいいから輪を作る、グループを作ってその一員になる、というのは社会人になるとなかなか機会はないものだ。集団活動の喜びが根底にあったのかもしれない。  そんなある日のこと、おれはまた声をかけられた。知らないやつである。最近は見知らぬ人間が話しかけてくると、山の会への入会だと思うようになった。それ以外で俺に声をかける理由などないからだ。 「山の会ですか?」  名乗られる前に俺は聞いた。 「あ、わかりました? 実はそうなんです。山本さんにお願いすれば入れてもらえると聞きまして」  なぜかみな俺に入会を申請してくる。どうしてそうなったのかはわからないが、俺が最初に山の会という単語を言ったことは確かだから、メンバーは俺が担当することだと思っているのかもしれない。
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