山の会

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 本気で再婚するのだろうか。この二日の間に? とてもではないが信じられない。  しかし週末になって山の会に顔を出すと、木下の姿はあった。亀山と楽しげに話している。俺に気がついたのか、木下は頭を軽く下げた。  どうやら本当に山野辺になったようだ。亀山が豪快に笑いながら木下をそう呼んでいる。  山の会も今や50人にまで膨れ上がり、居酒屋も俺たちのために二階の大広間を用意してくれるようになった。  50人の団体などまとめた経験などない。俺の手には余るようになってきた。  翌月曜日に出勤すると、声など一度もかけられたことのない重役の谷崎監査役に話しかけられた。 谷崎監査役は名前の崎の字に山が入っているが、まさか…… 「山本くん、山の会という噂を聞いてな」  そのまさかだった。  こうなると仙田社長にも話が行くかもしれない。  俺はゾッとした。もうめちゃくちゃだ。なぜここまで大事(おおごと)になったのかわからない。ただの飲み会だというのに重役までもが参加するとは緊張するどころではない。誰か無礼なやつが失礼をして問題になったりはせぬかと気が気でなくなる。  ひっそりと同僚と飲むだけだったのが、次々と見知らぬ社員が集まり、果ては他の課の課長や部長までもが参加し始めたものだから、険悪な雰囲気にならないようにと、俺は業務の最中以上に気を使っている。  俺の不安は的中し、翌週末の山の会へ行くと仙田社長が愉快げな顔で広間の上座を陣取っていた。  社長は終始楽しげな様子で、新入社員の無礼にも寛容な姿勢を見せていた。しかしいつ激昂したり、面倒なことになるとも限らない。俺は飲み会でストレスを発散するどころか、この山の会でストレスを溜める始末だった。
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