山の会

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 そのさらに翌週末の山の会に、とうとう俺は参加しなかった。開始時間のあと二度ほど連絡があったが、体調不良を理由に断りを入れた。  そのあとも俺は山の会へ行くのをやめた。彼女ができたからと嘘をついて、嫉妬深い彼女が離さないんだと悲しい嘘を付き続けねばならなかったが、もう行く気は失せていた。重役連中とバカな平社員の間を行き来するのはもう飽き飽きだ。山の会に入りたいと言って離婚だの籍を決めるだのと、妙な打ち明け話をされるのも面倒だった。  そして二ヶ月が経った頃、社長自らが全員に直接話をしたいとのことで、全社員のリモート会議が行われた。こんなことは入社以来初めてだ。 『山の会も総勢89名になっている。うちの社員は250名だが、こんなにも山の字が入っている社員がいるとは思わなかった。しかし山の字が入っているという結束力は、同じ会社で働いているという共通点以上のものがある。だから私は決めた。年内に全ての社員を山の会に入れる。名前に山の字が入っていない者、名字を変えたり改名できない者は退職してもらう』  はあ? なんだって?  俺は驚愕した。何を言っているんだこいつは。250人もの職員を抱える会社の社長が、名前に山の字がないやつは全員クビにすると言い出した。バカか。そうでなければ途方もないアホだ。こんな会社にいられるか! 労働基準監督署か組合にでも行って……  俺は周りを見渡して同僚の表情を伺った。同じ気持ちで不満を抱き、俺とともに組合に掛け合ってくれそうな仲間を探した。
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