救世主

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「――ある日、使用人の一人が卒倒した。僕はすぐさま彼に駆け寄り、症状を確認した。これは、すぐに処置をしなければまずい――目視でも、そうはっきりと分かる症状(もの)だった。  とにかく、すぐさま手術を――彼を手術室へ連れていき、さあここからという時だった。卒然、一本の電話が届いた。相手は、当家の主人――焦る気持ちを抑えつつ話を聞くと、体調が悪いから今から部屋まで来いとのことで。  だけど、主人には申し訳ないけれどその申し出はお断りした。今は急を要する患者がいるから、どうか後にしてほしいという旨を伝えた。正直一分一秒も惜しかったけど、しっかり納得してもらうために患者の症状、そして今すぐ手術が必要な旨を端的かつ明確に説明したつもり……だった。  ……だけど、それに対する主人の返答は衝撃的なものだった。 『はぁ? 何を寝惚けたこと言ってるんだお前は。何処の誰とも代わりが利くくだらん使用人一人死んだところで、いったい何の問題がある? 良いから早く私のところに来い』  ……そう、苛立ちさえ含んだ声で言われたんだ」
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