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 私はいつも『親切な人』と言われていた。母から教わった「自分がして欲しいことを他者にも行う」という考えを、文字通り実行してきたからだ。それを続けるうちに、他人が喜ぶことが何か、自然とわかるようになった。だから、学校生活であっても特に問題なくやってこれたし、それが当然のことだと思っていた。  だけど、その考えが揺らいだ瞬間があった。 「嫌です」  決勝戦の第四クォータ。僅差で負けていたため、先生がコハルを指名する。 準決勝で、コハルが一人で15点差を逆転して見せたとき、私は震えるほど感動した。彼女のプレーは素晴らしかった。だから今回も逆転してチームを勝利に導いてくれると、そう思っていた。  しかしそれを断った。  コハルが先生相手にそんなことを言うなんて、信じられなかった。普通、先生に指名されたら、みんな喜んで応じるはずだ。チームのために、自分ができることを全力でやる。それが私たちの共通認識だった。  結局私たちは負けてしまい、準優勝で終わってしまった。  試合後、私はコハルに尋ねた。 「みんなに負けてほしかったの?」  コハルのプレーはそう思わせるような消極的なものだったから。 「そうだよ」  その一言が、私の考えを大きく揺さぶった。 「どうして?」  思わず聞いてしまうと、コハルは鋭い視線で私を睨みつけながら言い放った。 「私一人で勝ってもバカみたいでしょ」  コハルが望んでいたのは、自分一人が目立つことではなく、みんなと一緒に勝利を分かち合うことだった。だからこそ、コハルは試合に出ることを拒否した。試合に出されても自分でシュートは打たず、パスに徹したのだ。  その瞬間、私は気づいた。「自分の望むことを他者に行う」のではなく、「他者が望むことを行う」ことが、本当の親切なのだ。
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