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気持ちは分かるが失礼な奴である。というわけで、私は彼を説得したのだった。
「私はあんたをヤンデレストーキングなんてしないし、包丁で刺すこともしないから安心しろ。刺すより先に殴るし、今のあんたは幽霊だから刺しようがないだろ?」
「それもそうか!そうだな、怖がる必要ないよな!」
「それに気づくまでに五年かかったの?ねえ?」
こいつ、顔はキラキラなイケメンなのに馬鹿である。
私は頭痛を覚えることになったのだった。いや、地縛霊が出てもいい、とは思っていたのだ。家賃が安いならそれに越したことはない。問題は、想定していた幽霊とはまるで違ったということである。
「しかし、困ったな」
ため息まじりで言う私。
「地縛霊がいてもいいと思ってたんだよ、殴って追い出せばいいかなって」
「なんでそうすぐ暴力に走るのか訊いてもいい?」
「説得なんてめんどくさいじゃん。暴力こそ手っ取り早い解決方法っしょ。……でもお前、殴れないしさあ。つか、殴ったところでよく考えたら地縛霊って追い出せないじゃん?まったりのんびりおひとり様ライフしようと思ってたんだけど、どうしたもんかなあ」
「うーん……」
地縛霊は、当然ながら成仏しない限りその部屋に居座るものである。彼も私に迷惑がられていることには気づいたのだろう。考えた末、こう提案したのだった。
「じゃあ、あんたが俺の成仏方法考えてよー。それまでは、なるべく役に立てるようにするからさ。あんたも一人暮らしで、夜遅くまで仕事して帰ってくるんだろ?家事とか、手が足りてないんじゃないの?俺やっとくよ、それでどう?家政夫雇ったと思ってさあ」
「まあ、それなら……」
私は思った。
体がスケスケの幽霊なのに、何で家事ができると思っているんだろう?と。
どうやら蒼衣いわく、“集中するとその時だけ部分的に物質化できるんだよね”とのこと。それなんて、都合の良い設定なのか。
まあ、そういうわけで。
彼はその日から、私の家に地縛霊兼家政夫として居座ることになったのである。
悔しいことに、彼の家事スキルは完璧に近かった。毎日カップ麺とコンビニ弁当で暮らす予定だった私の食生活がちょっと豪華になり、当たり前のように掃除と洗濯が毎日完了するくらいには。
それと、ワイシャツに毎日アイロンがかかるようになった。一体なんだこいつは、専業主婦でもやってたんか?と思わずつっこみたくなったものである。
「うん、俺生きてた時、女の子に“お嫁さんに来てほしい”ってよく言われてたよ!」
彼はそう言ってニコニコ笑ったのだった。
「それで付き合った子の面倒見てたら、なんかこう、依存されまくって、あんたがいないなら生きていけないからあんた殺してわたしも死ぬ!とか言われちゃってこんなことに……」
「なんかこう、いろいろ察したわ……」
なんでそういう話を笑って語れるのだろう。
私は呆れて、天を仰ぐしかなかったのだった。
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