第七章 龍のいななき の巻

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「ところで、長州藩の京都の拠点であった西本願寺が新選組に乗っ取られるとは…… どんな寝技を使ったと言うのだ?」 「鬼の副長が光り物をチラつかせたと言うことしか知らない。俺は一介の隊士だ、上の言うことには従うしかない」 伊藤俊輔は首をクイと傾げる。 「ん? 番外隊組長とか言っていたではないか? 一番隊から十番隊とは違うのか?」 「俺に役職はない。ただ、各隊の制限に縛られることなく動けるだけの組長だ。組長だけど、下に就く隊士はいない」 こういった組織の中で、自由に動ける立場と言うものは長を含む大幹部ぐらいだ。本人は役職はないと宣うが、その実、局長や副長並に好き勝手に出来る立場ではないだろうか。 そんな立場を与えられるこの犬は何者だと言うのだろうか。伊藤俊輔の中に疑念の種が生まれる。 「こういう時は、土佐藩の奴らが(ねぐら)にしている『近江屋』に行けと有事手引書(まにゅある)にあったな。では、失礼させて貰おう」 偶然にも目的地は同じである。どうやら、伊藤俊輔は土佐藩の誰かに会いに来たようだ。 もしかしてと思った犬千代は、尋ねてしまう。 「もしかして、坂本龍馬に会いに来たと言うのか?」 そう、伊藤俊輔は遥々長州から京の都まで龍馬に会いに来たのである。目的は亀山社中筆頭である龍馬に武器の注文を行うことと「ある計画」の進捗の報告。 本来ならば、龍馬との会談を西本願寺で行う予定だったのだが、新選組の屯所になってしまった以上はそれも出来ない。 これを新選組に知られれば一大事。伊藤俊輔は口を噤もうとしたのだが、反射的に答えてしまう。
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