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序章 池田屋にて犬吠える の巻
時は幕末。元治元年六月五日の夜のこと、京の都を若者達が疾走る。
彼らは京の都の護衛を任された剣士集団、新選組である。
新選組が探しているのは、天皇のおわす京都御所への放火を企む不逞浪士達。彼らは倒幕思想を持つ、長州・土佐・肥後などの過激派勤王志士である。
新選組は京都御所放火の情報を掴み、京の都中を駆け回り一所懸命の捜索を行った。
こうした一所懸命の捜索が実を結び、過激派勤王志士達が京都御所の放火計画会議を行う場所が三条にある旅館池田屋であることを突き止める。
そして迎えた亥の刻(午後十時)。新選組局長、近藤勇率いる十一人の近藤隊が池田屋の門前へと到着。
池田屋にいる過激派勤王志士は二十人。酒を飲みながらの会議であるせいか、議論は白熱。
六月の蒸し暑い時期であることから、窓は全開。池田屋門前の近藤隊も窓の外まで漏れてくる会合の声を聞き、池田屋に間違いないと確信を得る。
近藤勇はまず、池田屋の玄関と裏口を塞ぐことを考えた。我々が踏み込めば、逃げる奴がいるのは必定。ましてや、彼奴らは藩を脱藩した脱藩浪士。
士道不覚悟にも逃げる輩がいてもおかしくはない。そんな奴らが逃げることを考慮したのである。
「奥沢、安藤、新田、犬千代、お前達四人は裏口に回れ。裏口から出る者あらば、問答無用で斬れ」
四人の隊士は裏口に向かって駆けていった。近藤勇はそのうちの一人、犬千代と呼ばれた隊士の肩を叩き、無言で檄を飛ばす。
「谷、浅野、武田は玄関にて待機。祇園の四国屋で空振った土方隊がすぐに池田屋に来る。先導を」
三人の隊士はコクリと頷く。局長は言わなかったが、騒ぎを聞きつけて会津・桑名藩士がどの面下げてで不逞浪士の鎮圧の手柄目当てに襲来してくるだろう。彼らを池田屋に入れてしまえば、不逞浪士の鎮圧の功績は折半。
京都御所への放火の情報は新選組が単独で得たもの。最後のいいとこ取りでの功績の折半は許されたものではない。会津・桑名藩士の足止めも必要であると考えていた。
近藤勇以下、沖田総司・藤堂平助・永倉新八。四人の隊士は各々自分の愛刀を抜刀し、池田屋の玄関の前へと立ちはだかった。
近藤勇が左手で玄関の戸に手をかけた瞬間、沖田が徐に述べた。
「近藤先生、中には二十人の志士がいると監察の山崎から報告を受けています。土方さんを待った方がいいのでは?」
近藤勇はそれを聞き、軽く笑う。
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