第六章 遠い山並みの彼方 の巻

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「私は新参故に『秘密』を知ってるとは近藤殿も思いやしないだろう。ま、尊王のその日までは腹の中に仕舞っておきますよ。この秘密であるが『江戸城の限られた幕臣』『水戸藩の限られたお偉方』『薩摩藩の限られたお偉方』しか知らぬことだ。私は薩摩のお偉方に最近聞いたがね」 「伊東さん…… あなた、薩摩と繋がりが……」 「倒幕の志が一致しただけですよ。薩摩であるが、幕府に対する怨恨の情は人一倍、尊王の為に倒幕の志を持つ『我々』とは違いますよ。関ヶ原に始まり、美濃国の宝暦治水事件…… 度重なる参勤交代。こうして恨みが募り倒幕こそが国是。幕臣の皮を被った尊王の志士か…… 獅子身中の虫とはよく言ったものよ」 「そんな薩摩が『秘密』を握っている以上は……」 「幕府も長くはない。私はその日まで『役割』を果たさせていただきますよ」 秘密を知った山南の行動は早かった。何と「江戸に行く」と書き置きを残して屯所から去ったのである。
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