第六章 遠い山並みの彼方 の巻

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「山南さん、覚悟の方をお願いします」 どうやら、これで終わりのようだ。犬千代は近藤先生からの刺客、沖田では俺を殺せないと踏んでのことだろう。それに「幕府の命」という言葉…… 伊東さんから聞いた「秘密」と合わせて考えると、それは「口封じ」だ。 どうやら、俺達は幕府に裏切られていたようだ…… 我々のような天領民がどれだけ幕府に忠を尽くそうと、幕府はその忠に応えてはくれない。 それでも、従い尽くすのが「幕府の犬」と言うか。近藤先生……「秘密」を抱えて新選組で何をせんとするのですか? 山南は天を仰いだ。 「犬千代。頼みがある」 「何でしょうか」 「沖田がお前に刀を向けたことは、誰にも言うことなかれ。沖田の未来を摘みたくない」 犬千代にはその言葉の意味はわからなかった。だが、実の兄のように接してくれた優しい山南さんの言葉と言う事もあり、生涯守る誓いとする。 「承知しました。御覚悟を」 「それには及ばんよ」 山南は覚悟を決めた表情を浮かべながら、その場に座した。そして、懐に携えていた脇差しを引き抜き、横一文字に腹を切った。 座したまま腹を切り、眺めるは犬千代の後ろに倒れる沖田の姿。やがて、それも走馬灯のように巡る試衛館の日々へと移り変わる。
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